淫魔に堕ちたシスター

 神父の目の前には、一冊の日記がある。この日記は、シスター失踪事件を解く重要な手がかりとなるはずだ。
 ここは田舎町にある、教会の一室だ。この教会を管轄していたシスターが、護衛の教会兵と共に失踪した。神父は、シスター失踪について調べるために派遣されて来た。神父は、教会の地下にある千年も前に使われていた地下聖堂を調べた時に、この日記を見つけた。教会兵がつけていた日記だ。
 たかが下っ端の教会兵がなぜ字の読み書きができるのかと神父はいぶかしんだが、教会兵についての記録を思い出して納得した。失踪した教会兵は孤児であり、ある神父によって育てられた。その神父が字の読み書きを教えたそうだ。
 神父は日記を手に取りながら、ため息を吐いた。正直なところ気が進まない仕事だ。シスターは、さる有力貴族の娘だ。このシスターの失踪は、政治的な醜聞になる可能性がある。しかも、異端審問までがこの事件には絡んでいた。シスター失踪の直前に、この町で異端審問が行われたらしい。面倒な要素が絡み合っていた。そうは言っても、仕事である以上やるしかない。
 神父は、首を横に振りながら日記を開いた。


2月1日
 新任地の教会についた。田舎の教会らしく、味も素っ気もねえ建物だ。まあ、この町の建物の中では上等の部類か。
 早速シスターとともに、荷物をおろして運び込む。このシスターは働き者らしい。結構な事だ。つまらねえ女であることには変わらないけどな。

2月2日
 シスターは、早速町の有力者にあいさつ回りを始めた。俺もお供をしている。田舎の権力者は、表面的には明るいがどこか陰気なところがある。気にくわねえ。
 シスターは、形式的な礼儀を守って受け答えをしている。ご苦労なこった。

2月3日
 寒くてやってらんねえ。おまけに雪だ。これだから北には来たくなかったんだ。教会の中を掃除していると、寒さがこたえる。
 シスターも俺と掃除をしている。弱音を吐かねえでまじめにやっている。お嬢さん育ちなのにがんばるもんだ。かわいげはまったくないがな。

2月4日
 教会に人が来始めた。陰気な連中だ。露骨にこちらを観察してやがる。
 シスターは、早速連中の話を聞き始めた。その後で説教している。聞いている連中の反応は鈍い。まあ、優等生の小娘の説教だから当たり前か。

2月5日
 このシスターはだめだ。まじめ以外に取得がねえ。
 石像みたいな女だ。温かみの欠片もねえ。誰に対しても、形通りの対応をそっけなくこなしている。俺の事も物としか見ていない。
 このシスターが力不足と言うのなら我慢する。所詮は若い娘だ。だが、冷血だと言うのなら話は別だ。
 俺を育てた神父様は、厳しかったが温かみがあった。この女のように、人を物として見る様なことはしなかった。いくらこの女がきれいでも、欠片ほども好感は持てねえ。


 神父はため息を吐いた。このシスターについての報告書どおりだ。対人関係に問題がある。
 もっとも、この日記をつけている教会兵の粗野なところも不快だが。
 神父は、日記を読み進めた。


3月11日
 シスターは相変わらずだ。形式的な説教をしている。当然町の人の反応は鈍い。
 このシスターは、町の人とうまく付き合えていない。シスターは、人から聞くべき事は聞くし、話すべきことは話す。だが、話し方や話の内容が形式的なんだ。おまけにそっけない。それじゃあ、町のやつらの反応も鈍くなるだろう。
 俺も人付き合いは苦手だが、このシスターは俺よりもひどい。俺がシスターの代わりに、町のやつらの相手をしなくてはならないほどだ。

3月12日
 この町にはおかしなところがある。ただ陰気と言うだけでなく、やたらと隠し事が多い。よそ者を露骨に警戒する。話をしていると、はぐらかされる事がよくある。町を歩いていると、監視されているような気がする。
 教会にある記録を読んでみたが、前任者の神父もその事を気にしていたらしい。町役場に行ってこの町の記録を読もうとしたが、関係者以外は読む事ができないと断られた。シスターに口を利いてもらって、やっと読む事ができた。
 まだ少ししか読んでいないが、怪しげな所がある。書かれている事に裏がありそうな所が多いのだ。この町は厄介なところだ。

3月13日
 シスターは、毎日仕事に励んでいる。今日も信者の応対をこなしながら、たまった雑用を片付けている。帝都の教会本部への連絡も、まめにやっているようだ。
 このシスターはまじめなだけではなく、それなりに誠実らしい。仕事をしている最中でも信徒がくれば、仕事を中断してきちんと応対する。一月以上見てわかってきた事だが、このシスターは必死に信徒の相手をしているようだ。良く見なければわからない事だが。
 まあ、そっけなく見えることは確かだ。

3月14日
 シス
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