ミノタウロスと閉ざされた世界

 アンティパトロスは庭園を見ていた。色とりどりの花が咲いている。迷宮の中の小さな楽園だ。
 アンティパトロスは、迷宮の中にある館に住んでいる。彼を幽閉するための迷宮だ。その迷宮も孤島に建てられている。閉ざされた小世界の中で、小さな庭園はアンティパトロスを楽しませる数少ない物だ。
 庭園のすぐ後に石の壁がある。彼の倍以上の高さの壁だ。壁の外には石造りの迷宮がある。ごく一部のものしか迷宮を出る方法を知らない。俺を閉じ込めるために、わざわざこんなものを造るとはご苦労な事だ。アンティパトロスは笑うほか無かった。

 アンティパトロスの生活は、単調なものだ。閉ざされた迷宮の中で生活していれば、単調な日々を送るしかない。そんな生活に変化が起こった。
 七日前に、アンティパトロスの世話をしている従者が一つの事を伝えた。アンティパトロスに女が捧げられる。その女を好きにしていいとの事だ。その女が、今日来るそうだ。
 アンティパトロスは笑った。わざわざ幽閉している者に女をあてがうとは、お優しい事だ。父上に感謝せねばな。自分を幽閉し、女をあてがう父王を、アンティパトロスは嗤った。まあ、せいぜい楽しんでやろう。
 アンティトパロスは、水盤に移った自分の顔を見た。金色の髪が映っている。この国の生まれの者で金髪の者は少ない。大抵の者が黒髪か茶色の髪だ。アンティパトロスは自分の肌を見た。純白と言っていいような白い肌だ。この国の者は、薄い褐色の肌をしている。
 母上もつくづく愚かだな。男遊びをするのならば、同じ国の者にすればいいものを。そうすれば、子が生まれても夫の子だと言い張れるのに。アンティパトロスは、馬鹿な母を嗤った。
 俺は、これから女遊びをする。あてがわれるのは奴隷だろう。これで母上の味わった楽しみを味わう事ができるわけだ。父上も、たぶん隠れて女遊びをしているのだろう。あの二人の子にふさわしい遊びだ。
 館の入り口辺りが騒がしくなった。女が到着したのだろう。アンティパトロスは、寝椅子に横たわったまま葡萄酒の入った杯を傾けた。さて、どんな女が来るのやら。アンティパトロスは、庭園の花を眺めながら葡萄酒をすすった。
 大きく激しい足音が近づいてきた。従者が、何か大声で言っている声も聞こえてくる。何事だ?アンティパトロスは、怪訝そうに足音が聞こえて来る方を見た。
 一人の大柄な女が現れた。並の大きさではなかった。アンティパトロスを監視する兵士は、皆大柄だ。その兵士ですら、目の前に現れた女の肩の高さまでしかない。女は、背が高いだけではなく肩幅が広く、胸板も厚かった。全身に盛り上がった筋肉が付いており、褐色の肌と共にたくましさを強調していた。頭には二本の角が生え、尻からは尾が生えていた。頑丈そうな足は獣毛に覆われていた。人間の体に牛の特長が付け加わったような女だ。
 アンティパトロスは、呆れながら女を見ていた。どんな女をあてがうかと思えば、魔物の女か。父上はふざけているのか?アンティパトロスは、女をまじまじと見た。以前読んだ書物に、目の前の魔物娘と同じ特徴を備えている者について書いてあった。ミノタウロスか、これは大した女をあてがってくれたものだな。アンティパトロスは苦笑した。
 「あんたが王子様か?」
 ミノタウロスは大声で言った。巨体にふさわしい大声だ。従者は、ミノタウロスに対して非礼をとがめるような視線を向けた。それから、王子に対して申し訳なさそうな顔を向けた。
 「いかにも。俺は、島々を収める暗愚王の息子、アンティパトロスだ」
 アンティパトロスは鷹揚に答えた。アンティパトロスの答えに、従者は仕方がないといった調子で首を横に振った。アンティパトロスの父は、影で暗愚王と呼ばれていた。海神を騙そうとした為、愚か者呼ばわりされていた。
 「あたしはエルピスイオス。見ての通りミノタウロスだ。あんたとやりに来た」
 エルピスイオスと名乗ったミノタウロスの女は、満面に笑顔を浮かべて言った。「やりに来た」と恥ずかしげも無く言った。
 こいつは面白い奴かもしれないな。アンティパトロスは、エルピスイオスを気に入り始めた。よく見ると、エルピスイオスの精悍な顔は整っていた。筋肉のついた褐色の肌は、欲情を煽るものだった。エルピスイオスは、胸と下腹部に皮のベルト状のものをまとった露出度の高い格好をしていた。大きな胸を、革のベルトが強調していた。思った以上に楽しむ事が出来る女かもしれない。アンティパトロスは笑みを浮かべた。
 「やりに来たと言ったな。では今日から楽しませてもらうぞ」
 アンティパトロスの言葉に、エルピスイオスはニヤニヤ笑い始めた。
 「ああ、いくらでもやらせてやるよ。腰が抜けるくらいやりまくるぞ。ただ、その前に」
 腹をさすりながら朗らかに言った。
 「飯を食わせて
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