デーモンママに甘えよう

 フェルスは、安らかな眠りから目覚めた。彼は、絹と毛皮で覆われた豪奢な寝台で寝ている。彼のいる寝室は、絹織りのタペストリーや大理石の彫像が飾ってある。彼のいる寝台には、ジャスミンの香水の香りが漂っている。妻であるクシェルがつけている物だ。
 クシェルは、フェルスを抱きしめていた。彼は、なじみ深い妻の体の柔らかさと暖かさを楽しむ。眠りからまだ覚め切っていないためか、妻の体がいつもよりも大きいように感じる。フェルスは、妻の胸に顔を埋めた。彼の顔を余裕で包む大きさだ。胸の甘い匂いをかぎながら、そのなめらかな感触を楽しむ。魔物娘でしかありえない青い肌をしているが、その肌は極上のものだ。
 クシェルは、悪魔である魔物娘デーモンだ。派手な上に鋭さを感じさせる美貌と官能的な肢体の持ち主だが、包容力のある性格の女だ。いい年をした夫を存分に甘やかしてくれる。フェスルは、恥を捨てて妻に甘えていた。
 フェルスは違和感におそわれた。自分の体がいつもと違う気がするのだ。力がいつもより弱い気がする。寝ぼけているのだと初めは思っていたが、次第に気のせいでは無いと分かってくる。フェルスは妻の体を抱きしめる。やはり妻の体はいつもよりも大きい。
 フェルスは寝台から身を起こした。部屋を見回してみる。いつもの寝室とは違い、広い部屋だ。部屋の造りは同じであり、室内に置かれている物も同じだ。だが、大きさが違う。
 彼は鏡を見た。金で縁取られた大型の鏡は、彼の体を映し出す。そこには、10歳くらいの少年の姿が映し出されていた。フェルスは言葉を失う。
 呆然としている男を、妻が後ろから抱きしめた。
「おはよう、私の坊や」
 少年の姿となった男は、妻の言葉に応えることが出来なかった。

「薬を使って子供にしただと!」
 フェルスの怒鳴り声が寝室に響いた。
「そうよ、私たちはダークメイジたちと協力して開発したの」
 クシェルは、怒る夫に対して涼しげな顔で答えた。彼女によると、大人の男を子供に変える薬を開発することに成功したそうだ。そして昨日のフェルスの夕食に薬を入れたというのだ。
「私は小さな男の子が好きなの。あなたのことを愛しているけど、やっぱり男の子に対する愛を否定することは出来ないのよ」
 クシェルは、上気した顔で言った。彼女の声は、ねっとりとした響きがある。
「それでね、あなたを子供にすればいいと考えたのよ。ああ、薬の開発まで時間と労力がかかったわね…」
 クシェルは遠い目をする。
 フェルスは、ここ数年の妻のことを思い出した。忙しそうに出かけていくことが多く、彼らの居城に戻ってきても、部下であるデビルたちと何かをしていた。そして彼らの居城に、はぐれ魔女であるダークメイジが頻繁に訪れていた。
 フェルスは、以前にこれらのことを妻に尋ねた。だが、「親魔物領を増やすために必要なことなの」と言うだけで、具体的なことを教えてくれなかった。どうやら仕事では無くて、自分の私的な欲望を満たすために活動していたらしい。
 呆れるフェルスに、クシェルは飛びかかった。フェルスは避けようとしたが、子供の体は上手く動かせない。たちまち抱きしめられてしまう。
「ああ、このプニプニした体!あの中年太りした体が、こんなにぽっちゃりとした男の子の体になるなんて!子豚ちゃんみたい」
 クシェルは、フェルスに頬ずりをした。そして耳元でささやく。
「ねえ、坊や。これからは私のことをママと呼ぶのよ」

 昼食の時間となった。フェルスはテーブルに歩いていく。彼は子供用の服を着て、子供用の靴を履いていた。クシェルは事前に用意していたらしい。いつもの絹服では無くて、毛織物の服だ。「私が作ったのよ」と、クシェルは得意気に言っていた。
 どうやらクシェルは、「ママの手作りの服」を着せることにこだわっているらしい。きちんと練習をして、一生懸命作ったことは分かる。だが、いつも着ていた服職人の手による絹服には及ばない。ただフェルスは、妻の努力を無下にする気は無くて、こうして着ている。そして彼女の作った服は、温かいことは確かだ。
 大理石製のテーブルと絹張りの椅子は、いつもよりも低いものだ。子供になったフェルスに合わせたものを用意したのだろう。彼は食卓に着く。食卓には、銀の食器に盛られたパンとシチュー、そしてサラダがある。
「私が坊やのために作ったのよ」
 クシェルはニコニコしながら言った。パンを作ることは出来ないだろうから、シチューとサラダを作ったのだろう。「ちゃんと手を洗いなさいね」そう、クシェルは注意する。フェルスは、バラの花弁を浮かべた水盤で手を洗う。そしてフェルスは、銀のスプーンでシチューをすくった。羊肉、ニンジン、玉ねぎを、トマトと香味野菜、赤葡萄酒、香辛料と共に煮込んだものだ。
 フェルスが予想したよりもうまか
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