机の上にノートが1冊乗っていた。青い色のB5サイズのノートだ。緑川准は、このノートに日記を書いている。1人の女がそのノートを取る。夕日に照らされた室内で、女は日記を読み始めた。
7月18日
今日、捨てられた動物を拾った。いや、拾わされた。そもそも動物なのか分からない。
僕は、いつも通りに丘にある公園に行った。暑い日だったけれど、公園から市内を見わたしたかったんだ。マウンテンバイクで丘を登ると、公園の中にとめた。
展望台から見わたすと、市内がよく見える。でも、暑くてがまん出来ない。ペットボトルの紅茶を飲んだけれど、がまん出来ない。僕は帰ろうとした。
展望台から出る所で、右側に変なものが見えた。ダンボールみたいだったけれど、大きすぎる。よく見ると、ダンボールをつなぎ合わせた物らしい。中には、馬みたいなものが入っていた。
下半身は、白い毛並みの馬だった。でも、上半身は人間の女の人だった。頭に白い角が生えている女の人だ。その人は僕を見るとほほ笑んで、ダンボール箱にはってある紙を指さした。「拾ってください」と、その紙には書いてあった。
僕は目をそらして、早歩きをした。「待ちなさい!」後ろから声がかかってくる。僕は逃げ出した。馬のひづめの音がせまってくる。僕はすぐに捕まえられた。
「捨てられた動物は拾わなくてはいけないのよ。准君の読んでいる漫画にも書いてあるでしょ」
僕はスマホを取り出した。でも、どこへ電話をすればいいんだろう?警察なの?牧場なの?それとも猟友会?自衛隊ではないと思うけれど。
「馬肉料理専門店って、あなた、どこへ電話するつもりなの?」
僕にも分からない。気が付いたらこんな番号を選んでいた。
馬の女の人は、僕からスマホを取り上げた。
「ひどい子ね。もう、こんなことが出来ないようにしっかりとお仕置きしてあげる」
僕は、馬の女の人に家に引きずられて行った。
今日は何だろう?わけが分からないや。
7月19日
やっぱり、わけが分からないや。お父さんとお母さんは、馬の女の人を飼ってもいいと言っている。てっきり馬の女の人を追い出すか、警察にれんらくすると思っていた。でも、しなかったんだ。
お父さんも、お母さんも顔が変だった。怒ったような顔をしていたかと思うと、笑顔を浮かべていた。何なんだろう?
馬の女の人は、ずっとニコニコしていた。そして僕にくっついていた。お父さんとお母さんに、「これからよろしくお願いします」と、深くおじぎをしていた。そして、昨日から僕の家にいる。
やっぱり、わけが分からないや。
7月20日
馬の女の人は、アイリーンという名前なのだそうだ。アイリーンさんは、ユニコーンという魔物なのだそうだ。上半身は人間の女の人と似ていて、下半身は馬の体らしい。頭には一本の白い角が生えていて、それはジュンケツを現していると言っている。
ジュンケツって、何だろう?アイリーンさんに聞いてみたら、「ドウテイを愛すること」なのだそうだ。ドウテイというものもよく分からない。聞いてみたら、セックスをしたことがない男の人なのだそうだ。
セックスについては、性教育の時間に教わった。僕は顔が赤くなってしまった。アイリーンさんの顔も赤くなっている。
7月21日
アイリーンさんは、僕のそばにばかりついている。学校の送り迎えをして、家にいる時には僕のそばから離れない。離れて欲しいと言うと、「ずっと一緒にいる」と言うのだ。「目を離したすきに、他の女に食われてしまう」と言うのだ。
女の人は僕を食べるのだろうか?僕が子供だからって変なことを言わないで。そう言うと、「食べるというのは他にも意味がある」と、アイリーンさんは答えた。
他の意味って何だろう?アイリーンさんに聞いてみたら、「ドウテイが奪われる」と言っていた。また、ドウテイだ。そんなに大切なものなのか?
それにしてもアイリーンさんは、仕事とかしないのだろうか?学校で授業を受ける時以外は、いつも僕のそばにいる。仕事に行かなくてもいいのか?
アイリーンさんは、自分は医者だと言っていた。でも、普通の医者ではなくてムメンキョイなのだそうだ。「ブラックジャックのような仕事をしている」と、アイリーンさんは言っている。
本当は、小学校の保健室の先生になりたかったそうだ。資格は取れたそうだが、どこの小学校も雇ってくれなかったそうだ。「貴重なドウテイの宝庫なのに、なぜ私をはねつけるの?」そう、アイリーンさんは悔しがっていた。
よく分からないけれど、アイリーンさんはおまわりさんにつかまったりしないのだろうか?もしかしたらアイリーンさんは、この暑さで頭がおかしくなってしまった人なのかもしれない。
女は、日記を読みながら苦笑していた。夕日が彼女の体を照らしていなければ
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