捨てキマイラを拾おう

 おれは、海沿いの公園を歩いていた。港の中に造られた公園であり、広さはかなりある。おれは、学校帰りには公園を散歩する。公園から海を見るのが好きなんだ。せまい教室の中に閉じこめられた後は、広い場所を見たい。
 西日が海を照らしていて、波が白く輝いている。おれは、制服のえり元をゆるめて風に当たった。こんな物を着たくはないが、学校が無理やり着せる。
 ふと、おれは右側の生け垣を見た。変なものを見た気がする。緑の生け垣の前に、ベージュ色のダンボール箱があった。その中に何かが入っている。
 見ない方がいいと分かっていた。でも、つい見てしまったんだ。ダンボールの中には、動物なのか人間の女なのか分からないものが入っていた。女の右肩には、山羊の頭が生えている。左肩には、ドラゴンの頭が生えている。真ん中には、人間の女のような頭が付いている。
 人間の頭なのか?頭にはねじれた角が2本生え、毛の生えた動物の耳が付いている。そのなんだか分からない女は、おれにほほ笑みかけてきた。白い毛の生えた右手が、ダンボールに書いてある字を指している。「拾ってください」と流れるような文字で書いてある。
 おれは、目をそらして歩き出した。「ちょっと、待ちなさい!」そのわけの分からない女は叫んだ。おれは走り出す。羽ばたく音が俺の後ろから聞こえてきた。おれは、白い毛の生えた手と黒いうろこの生えた手につかまれる。必死にもがくが、逃げられない。
「捨てられた動物は拾わなくてはだめよ。かわいそうじゃない」
 おれはスマホを取り出した。自衛隊のいる所を探そうとする。だが、スマホは取り上げられてしまう。
「なにこれ、自衛隊の駐屯地って、私を何だと思っているの?」
 怪獣、とおれはつぶやいた。そのとたんに、おれは怪獣女の手に体をしめあげられる。
「私はつまらない冗談が嫌いなの」
 冗談じゃねえよ怪獣女、と言ったらさらにしめあげられた。
「さあ、帰りましょう。家に帰ったらおしおきよ」
 おれは、いくつもの動物と魔物の体の合わさった怪獣女に引きずられていった。

 おれは、この怪獣女のことは前から知っていた。おれと同じ町内に住んでいるから、時々見かけているのだ。この女の姿は、一度見れば忘れられない。魔物娘はすごい姿の奴が多いが、この怪獣女はその中でも特別だ。
 怪獣女は、キマイラという魔物娘なのだそうだ。いくつもの動物や魔物が合体しているらしい。俺に付きまとってきたキマイラは、ライオンとドラゴン、ヤギ、そしてヘビが合わさっている。おまけに4つの人格があるそうだ。
 すごい奴だと思う。背中に付いているドラゴンの翼を広げた姿は、かっこいいと思う。火をふいている姿を見た時は、思わず拍手してしまった。だけど、見ているだけで十分だ。おれは、怪獣女と仲良くなりたいとは思わない。
 だけど、この怪獣女は違うようだ。会うたびにおれのことをじっと見ている。まとわりつくような見方だ。正直な所、うっとうしいんだ。最近は、おれは怪獣女をさけていた。そうしたら、俺が毎日行く公園で待ち伏せしてやがった。しかもダンボールに入るという、わけの分からないことをしてやがった。いったい、何を考えているんだ?
 おれは、父さんや母さんにたのんで警察を呼んでもらおうとした。警察が怪獣と戦えるか分からないけれど、何とかしてもらいたかったんだ。だが、父さんも母さんも、キマイラを飼ってもいいなんて言いやがった。おれは、親の顔をまじまじと見てしまったね。
 父さんは平然とした顔をしていたが、どこかぎこちなかった。母さんは、俺と目を合わせようとはしなかった。怪獣女を見ると、ねっとりとした笑いを浮かべている。こいつ、父さんたちに何をしたんだ!
 おかしなことが起こっていることが分かっていても、おれにはどうすることも出来ない。おれはガキなんだ。
 おれは、怪獣女といっしょに暮らすことになった。

 おれは、学校が終わった後に商店街をぶらついていた。特に用があるわけではないが、家に帰る気はない。家には怪獣女がいる。やたらとおれにまとわりついてきて、うっとうしい。「ペットの面倒を見るのは飼い主の義務よ」などと言いやがる。何がペットだ!知ったことか!
 おれは、勝手気ままにやりたいんだ。人にしばられたくないんだ。幸い、親はおれを自由にさせてくれる。学校も、あまりうるさくはない。もちろん、親も教師も俺をしかることはあるが、それはたまにやる程度だ。おれは、問題児というわけではない。
 だが、あの怪獣女はちがう。何かとおれに指図しやがる。学校が終わったらまっすぐ帰ってきなさい、などと言いやがる。知ったことか、ボケ!
 おれは、ハンバーガーショップに入ろうとした。腹がへってきたのだ。親からもらった小遣いはまだある。おれは、親からけっこう金をもらっている。あ
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