バーナードは薬草を取りに来ていた。彼の住む開拓地の東側に川が流れている。その川を少しさかのぼれば、薬草が生えている所があるのだ。開拓地で医者を務めているユニコーンに、薬草を取ってくる事を依頼されたのだ。
幸い、畑仕事の区切りがついたから来る事が出来た。バーナードは、ユニコーンの世話になった事がある。彼は、世話をしてくれた者の依頼はなるべく断りたくはない。
バーナードは、薬草を取り終わると川に近づいた。川面は、日光を反射して白く輝いている。薬草を入れた籠を下ろすと、顔や手足を洗い始めた。水の流れは、彼の熱を持った足を気持ち良く冷やしてくれる。バーナードは心地良げにため息をつく。
バーナードの右後ろの草が鳴った。彼は勢いよく振り返る。深緑の草間に、褐色の女の顔があった。女は、何も言わずに金色の瞳で彼を見つめている。バーナードは、薬草を切るのに使った小刀に手を伸ばす。
男と女は、無言のままにらみ合った。
女は無言のまま動かなかった。ただ、金色の瞳でバーナードを見つめている。こいつは人間では無いな、魔物だな。バーナードは、彼女の瞳を見つめながらそう考える。この辺りで正体不明の魔物が出ると、開拓地の者が言っていた事を思い出す。
出るというだけで被害はない。だから、バーナードは大して警戒していなかった。だが、それは誤りだったと考えている。この無言のまま見つめてくる魔物は、迫力があるのだ。大型の肉食獣を前にしたような感覚だ。バーナードは、小刀を強く握りしめる。
魔物女は、いきなり動き出した。草から体を出し、バーナードの前に全身を露わにする。彼はとっさに飛びのき、小刀を構える。魔物女の姿を見た時、彼はうめき声を上げてしまった。
上半身は人間の女だが、下半身は蛇の体だ。ラミアと似ているが、ラミアよりもかなり大きい。鬼の魔物娘であるオーガを思わせるほどだ。手は白い獣毛で覆われ、蛇体にも鱗があるべき場所が白い獣毛で覆われている。その異様な姿の魔物は、黒目で覆われた金色の瞳でバーナードを見据えている。
こいつはまずいな。話が通用しねえんじゃねえのか?バーナードは無言でつぶやく。彼は後ずさりをする。
魔物女は前に出た。いきなり距離を詰められる。バーナードは小刀を前に突き出す。魔物女は止まり、彼をじっとにらみつける。にらみ返すバーナードの顔には脂汗が浮かぶ。
「あ、あ、あ、あああっ…」
魔物女は声を出した。女にしては低音だ。バーナードは、体を震わせながら小刀を握り締める。魔物女は、言葉になっていない声を出し続ける。
「あ、あの、あの、あの…」
バーナードは、魔物女を怪訝そうに見つめた。もしかして魔物女は話をしたいのではないかと、やっと気が付く。
「何が言いたいんだ」
バーナードが話しかけると、魔物女は体を震わせる。そして険しい表情で彼を見つめる。
「あ、あの、だか、だから、あの…」
彼女の険しい表情は、バーナードに襲い掛かりそうに見える。だが、言葉を注意して聞けば、襲い掛かるとは限らないように思える。
「俺はバーナードという者だ。あんたの名前は?」
「えっ、あっ、その、ああ、バーナード、名前?」
バーナードは唇を噛みしめる。この魔物女に害意は無いかもしれない。だが、話がきちんと通じているのか分からない。
「ワワラグ、あの、そ、そのワワラグ、名前、私の…」
「そうか、あんたの名前はワワラグというんだな」
魔物女は、首を何度も縦に振る。
どうやら魔物女に害意は無いらしい。そう分かったバーナードは、少し警戒を解く。
「俺は、この辺りに薬草を取りに来たんだ。あんたの縄張りに踏み込んでしまったのならば謝るよ。ただ、薬草はもらえないかな」
「い、い、い、いい、いいよ。持って行って…」
「ありがとう」
バーナードは礼を言うと、ワワラグと名乗った魔物女に背を向けようとする。
魔物女は、いきなり突進してきた。バーナードは、反射的に小刀を突き出す。小刀は弾き飛ばされ、銀光を放ちながら宙を舞う。バーナードは地に倒される。魔物女は彼を抱きしめていた。
「な、何のつもりだ!」
「ご、ご、ごめん。で、でも、行かないで…」
「放せよ!」
「ご、ごめん。で、で、でも、行かないで…」
バーナードは、ワワラグの柔らかい感触に包まれた。ワワラグは、胸などをわずかに隠した格好であり、彼女の肌がじかに触れている。バーナードは、彼女の感触に陶然としそうになる。
だが、いきなり抱きしめられて、そのままでいるわけにはいかない。バーナードは、ワワラグを振り放そうとした。だが、人間離れした力で抱きしめられており、振り放す事は出来ない。それどころか、バーナードは息苦しくなってきた。
「は、放せ!お、俺を絞め殺すつもりか!」
「え、え、ええっ?わ、わ、わわわっ、わ
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