漫画で天誅を下せ!

 俺は寝取り、寝取られが憎い。俺は寝取り、寝取られが憎い。大事なことだから二回言った。
 俺は漫画を描いている。いわゆるエロ漫画を描いて飯を食っている者だ。男と女が宇宙の彼方に恥を捨て去ってファックする漫画を描いて生活をしている者だ。社会のゴミ、国家の恥とも言うべき人間だ。文句あるか?
 そんな俺でも寝取り、寝取られは許せない。俺は、この人類の敵、人類悪というべきものに漫画で天誅を下している。そうだ、天誅だ!俺は神の代理人だ!

 なぜ俺が寝取り、寝取られを憎むのか?それは簡単な理由だ。俺は、女を寝取られたからだ。
 俺は、以前はアニメーターをしていた。アニメ業界の典型とも言うべきろくでもないアニメ会社で働いていた。請負契約を結んでアニメ会社に所属して仕事をしていた。月収は八万円程度、会社は俺に社会保険を適用しない。朝から夜遅くまで仕事をしているのにこれだ。そんなクソみたいな雇用条件だが、アニメーターにとっては普通のことだ。
 アニメーターは、三か月で辞める人間が多い。そんな環境で二年もアニメーターをしていた俺は、もの好きだろう。親と同居していたため家賃を払う必要が無かったことも、アニメーターを続けた理由の一つだ。
 そんな俺がアニメーターを辞めた理由は、同僚の女を上司に寝取られたからだ。俺は動画家であり、原画家の指示に従って仕事をしていた。その原画家は、怒号と罵声を浴びせ、人格攻撃をするのが三度の飯より好きなパワハラ上司だ。こんなクソを会社は重宝していた。
 俺は社会のことを知らなかったから、こんな扱いをされるのが当たり前だと思っていた。あの原画家のやっていたことは、労働基準監督署に訴えることの出来ることだと後になって知ったよ。
 過重労働とパワハラ、低収入で苦しむ俺の支えは、一人の同僚の女だ。俺と同じ動画家であり、俺と一緒に原画家の下で働いていた女だ。俺たちは原画家の無茶ぶりに苦しみながら、協力して仕事をしていた。仕事をしているうちに、同志のような気持ちが生まれてきた。
 俺のダメな所は、同志に過ぎないのに恋愛感情まで持ってしまったことだろう。俺は、その女を好きになっていたのだ。その気持ちはあっさりと裏切られた。
 ある日、俺は遅くまで仕事をしていた。うっとうしい原画家は帰ってしまい、女も帰っていたはずだった。俺は、やっと命じられた仕事を終えて帰り支度を始めた。その前にトイレに寄った。
 トイレから出ると、倉庫として使っている部屋の前に通りかかった。変な物音が聞こえたので、俺はその部屋の中をのぞき込んだ。
 中には、帰ったはずの原画家とその女がいた。女はジーンズを脱ぎ捨てて、下半身が裸になっていた。そして犬みたいに四つん這いになっていたのだ。その女を、汚いケツをむき出しにした原画家が攻め立てていた。
 俺は、あの光景を今でも夢に見る。女は薄明りの中で、とろけた顔をして喘いでいた。原画家は、傲然とした顔をして腰を動かしていた。犬と猿の交わりでも、もっとましだろう。
 俺は、何もせずにその場を去った。その翌月に、俺は会社を辞めた。
 正確に言うと寝取られではないのかもしれない。俺たちは職場の同僚に過ぎず、恋人同士では無かったのだろう。俺が勝手に好きになっていただけだ。女にしてみれば、さえない動画家よりも将来のある原画家の方がよかったのだろう。だが、俺の気持ちとしては寝取られたようなものだ。
 これを機会にして、俺はアニメーターを辞めた。母は俺を責め立てた。高い金を出してアニメの専門学校に入れたのに、このざまは何だ。甘えるな。お前を産まなければ良かった。そう、俺を責め立てた。
 これに対して、父は俺を責めなかった。これで、社会のことも少しは分かっただろう。少し休んだら新しい仕事を探せ。そう言った。
 俺は、二か月後に新しい仕事に就いた。アウトソーシングを請け負っている会社で、入力オペレーターとなった。俺は、工業高校を出ているしアニメの仕事もしていたから、パソコンを使うことは出来る。それで仕事に就けたのだ。契約社員として雇用契約を結んでおり、月収は十三万五千円、社会保険は適用。いわゆるワーキングプアだ。それでもアニメーターのころよりはマシだ。
 その会社では残業があまり無かったために、俺は漫画を描き始めた。同じ絵と言っても、アニメと漫画は違う。その違いに苦労しながらも、俺は漫画を描き続けた。描いていて再確認したのだが、俺はやっぱり絵を描くことが好きだ。
 俺は、サイトやツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービスに自分の作品を投稿し続けた。徐々にだが、俺の作品は評価されるようになった。そしてあるエロ漫画雑誌が、俺に仕事を依頼してきたのだ。
 この仕事はある程度は評価され、俺の漫画は商業誌に載るようになった。エロ漫画限定だ
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