「糞っ……何で俺がこんな目に……」
両手に着けられた手錠を忌々しく睨みつけながら、一人の若者が呟く。
彼の両脇には連行を担当する武装した正規兵が二名、片方は人間の男性、もう片方はソルジャービートルだ。
若者の呟きを聞き取ったソルジャービートルが淡々と彼を責める。
「街ノ建物ニ火ヲ点ケタ貴方ガ悪イ、当然ノ結果ヨ」
彼女の言葉にもう一人の兵士が反応する。
「まぁまぁミネルバ落ち着いて、僕たちの仕事は彼を牢番に引き渡すまでだよ」
「後の事は判事さんに任せて、僕たちは早く警備に戻ろう」
彼の言葉に納得したミネルバは、うな垂れる若者に速く歩くように急かす。
魔物相手から逃げ切れる算段の無い若者は、大人しく判事の下まで連行されて行った。
若者達は無事に判事の下へと辿り着き、兵士達は仲睦まじくイチャイチャしながら街の中心へと戻っていく。
入り口の警備兵へと引き渡された若者は、街唯一の刑務所である巨大な建物の中へと連行されて行く。
「魔物用のサイズなのか……こりゃあ……」
若者は建物の大きさに目をパチクリさせて、自分の立場も忘れて興奮している。
彼が周囲の状況を見渡している間に判事の部屋まで到着したらしい、警備兵が判事の部屋のドアを開けると、若者に中に入るように指示を出した。
「君がここ最近この街を騒がしていた放火魔か、まずは名を聞こう」
美しい顔をした女騎士が若者を厳しい目付きで見据えながら声を掛けてきた。
若者は思わぬ美女の登場に動揺したのか、少し詰まり気味に自分の名前を答える。
「テ……テオだ、テオ・マクドネル……」
テオが素直に名乗った事に満足したのか、判事の女騎士は彼の罪を確認する。
「君がこの街で引き起こした放火は四件、三件はボヤ程度で済んだものの一件は全焼、生命に関わる重傷者を出している」
テオは判事の言葉に自分の立場を思い出すと、顔を伏せて黙り込んでしまう。
「どうした? 何か反論や事実と違う事は無いのか?」
判事の言葉にテオは顔をパッと上げると苦し紛れの言い訳を口にする。
「建物を全焼させ重傷者を出した火災は、俺のパートナーが起こした火事だ!」
テオのこの発言は、あっさりと三件の放火について認めたものであり、全焼させた一件についても関与を認めたものでもあった。
呆れた表情をしながら判事はテオを睨みつけながら語気を強める。
「そのパートナーとやらは火災に巻き込まれた子供を救う為に大怪我をしたのだぞ!」
「自らの保身の為に仲間を売る貴様とは大違いだな!」
判事の言葉にテオはぐうの音も出ない様子で、顔を真っ赤にさせ全身を震わせている。
「性根の腐った貴方に相応しい牢屋を用意してあげます」
「この罪人を特別房へ連れて行きなさい!」
判事の命令に頷いた警備兵が、抵抗するテオの襟首を掴んで引きずっていく。
「俺は悪くない! 俺に放火を指示したやつがいるんだー!」
テオの情けない声が建物内に響き渡るが、彼に同情する者は誰一人いなかった。
テオは牢番へと引き渡され、さらに刑務所の奥へと引きずられる。
「糞っ、刑務所の奥深くなんて拷問部屋くらいしか想像つかねぇじゃねぇか!」
テオが喚き散らしていると、牢番がその歩みをピタリと止める。
「私達は人を傷つけるような野蛮な道具は使ったりしない、予想が外れて残念だったな」
牢番はテオに吐き捨てるように言い放つと、テオを部屋の中へと投げ捨てる。
テオが投げつけられた痛みに耐えつつ立ち上がった頃には、頑丈な鉄の扉が閉められ施錠されていた。
扉の外から牢番の声が聞こえる。
「ここで今までの自分の行いを悔い改め、新たな人生を手に入れるといい」
石と金属がぶつかる音が次第に遠ざかって行く音を聞きながら、テオは一人呟いた。
「俺の人生はこれが二度目なんだよ……チクショウ」
テオはしばらく扉と睨めっこしていたが、今は体力を温存しようと牢屋にしては整えられたベッドに横になり眠りについた。
テオはその日、自分の人生を大きく変えてしまった日の夢を見た。
高名な彫刻家の長男として衣食住には困らない生活をしていた頃の夢だ。
そんな彼は、厳しい父、感情を面に出さない母、自分の事を疎ましく思う次男に囲まれた複雑な家庭生活を送っていた。
テオは幼い頃から幼い頃から父に厳しく彫刻の指導をされ、メキメキと頭角を現していく。
次男も同じように頭角を現していくが、当然後を継ぐのはテオだ。
テオはいつもその事で弟の事を馬鹿にしていた。
「お前がいくら頑張ったって親父の跡は継げないぞ? せいぜい自分の力だけで這い上がって来いよ」
弟の目に見る見る怒りが浮かぶが、テオはそんな弟
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