Bee war #4

「第二、第三小隊沈黙。損耗率35%です」
「ふむ、流石に私が見初めただけはあるな」
 部下の報告を聞いたラメトク――ラーメは、冒険者ギルドが特別に用意した上等な椅子に座ったまま不敵な笑みを浮かべた。
「自分の部下が倒されているというのに随分と余裕ですね」
「まぁ、私の部下は考え無しの突撃で大被害を被ったどこぞの役立たずどもとはわけが違うからなぁ。いや、我々の役には立ってくれたのだから、感謝しなければバチがあたるか?」
 私の言葉に対するラーメの答えに周囲の空気がビキリ、と音を立てて凍りついた。原因は言わずもがな。
「…ふん。粗暴な貴女達と違って私達は戦に慣れていませんもの」
 ハニービーの女王ピリカである。
 頬を膨らませて憮然とした表情をしているのにもかかわらず、どこか可愛さが引き立つ感じすらするのは…これが彼女の魔性なのだろう。
 そもそも、何故敵対しているはずのハニービーとホーネットの女王が同じ場に居合わせているのか。それは勿論この私、この街に支部を置く冒険者ギルドの筆頭仲介人、アールが方々に色々と働きかけたりトロンを上手く使ったりしてお膳立てしたからなのだが…。
「失敗したかもしれませんね…」
 今後の友好関係のためになればと思ってセッティングしたのだが、かえって逆効果になってしまった感も否めない。
「とは言っても少しばかり被害が大きすぎるな。一度部隊を下がらせて再編成しろ」
「はっ!」
 ラーメの指示を受けて連絡役のホーネットが物見台からから飛び立ってゆく。
 あの小さな羽でよく飛べるものだ。今日も世界は不思議で満ちている。
「それにしてもトロン様はお強いのですね…とてもただの人間とは思えませんわ」
 次々と運ばれてくる負傷したホーネットやハニービーを見てピリカが呟く。
 この街を囲む城壁は非常に厚く、堅牢だ。その上には私達が戦場である北西の森を望んでいる物見台(住民からは展望台と呼ばれている)や、自治軍の兵隊が訓練するための練兵場が設けられているのだが…そこには今普段では考えられないような人や魔物がひしめいていた。
 今の城壁の上はさながら観客席兼野戦病院である。人、魔物問わず森で起こる爆発の度に歓声をあげ、そこかしこに食べ物や飲み物を売り歩く売り子が歩き、運ばれてきたハニービーやホーネットが街側が用意した救護要員に傷を癒してもらっている。
「それはそうと…随分と混沌としてきたな」
「こんなに沢山いるんですねー」
 あまりにも多すぎる人、人、魔物。ラーメはその様子に辟易とし、ピリカはただ物珍しげにそれを観察する。やはり魔物とは言っても個性は様々だ。
「野戦病院も今のところ正常に機能しているようでなによりです」
「そうだな。よくあんな無茶な注文を見事実現させたものだ」
 そう言ってラーメはピリカをチラリと見る。
「だって負傷者が出るのは目に見えていましたもの」
 今回のイベントを実行するにあたってハニービーとホーネットはそれぞれ条件をつけてきた。ハニービーからの条件は負傷者の救護体制を人間側が整えること。ホーネットが出した条件は不正の監視と戦場を把握できるスペースを提供することである。
 その両方をたった二日で用意するのには本当に骨が折れた。このイベントをちょっとした祭りに仕立て上げる事によって経済効果をでっち上げ、頭の固い自治軍を説得し、回復魔法を扱える魔法使いや冒険者をかき集めてなんとかこぎつけたのだ。
「それにしても、この街では人と魔物が共存しているのですね」
「私も最初に訪れたときは面食らったな。この街に訪れるまで、人間は私たちを嫌悪していると思っていた」
「この街の領主は共存派ですからね。まぁ、人間の中で少数派なのは間違いないです」
 これは幸福なことだ、少なくとも魔物と呼ばれる彼女らと愛し合う者達にとっては。人間至上主義者とか魔物討伐派とか呼ばれる者達にとっては目の上のたんこぶでしかない。
 住人の大半は知らないことだが、この街は政治的に非常に微妙な立場にある。こういった本来自治軍が解決すべき事案を冒険者ギルドに任さねばらないほどに。
 他にも魔物を受け容れている領はいくつかあるのだが、他領の領主に比べて我が領の領主の力は悲しくなるほどに小さい。下手に軍を動かせばそれを咎められて取り潰しにされてもおかしくない位に。
 実際、今までそういった情勢になったことは何度かあったらしい。しかし、最終的には何事もなく終わる。
 領主の世渡りスキルが高いのか、それとも他の要因があるのか…私はチラリと森に上がった火柱を見た。
「まさか、ねぇ」
 あの魔術師は私がこの街に赴任してくるよりずっと前からこの街に住み着いているらしい。人づてに聞いた話だが、どうもそういう情勢になると家を空けることが多くなるようだ。
「今考えること
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