ドガァァァァァン…
遠くで雷鳴のようなものが鳴り響き、旅人は一瞬ビクリと肩を竦めた。通り雨だろうか? 今通っているこの街道は森の中を切り開いて作られているため、遠くの空を見るための見通しが利かない。
幸い雨宿りできそうな木は豊富にあるので、濡れ鼠になることは避けられるかもしれないがやはり雨には降られたくないものである。
「最近この街道では魔物が暴れてるって言ってたしな…」
北西にある街で聞いた話によると最近この街道を通ったキャラバンや旅人、冒険者が蜂型の魔物に襲われているらしい。
本来ならばそんな危険な道を通りたくは無いが、届け物をするために旅人はこの道をどうしても通らなければならなかった。いくら魔物が出没しているとは言っても、森の中を突っ切るよりは幾分マシだ。
それに、その噂のおかげでただ荷物を運ぶだけの仕事であるにも関わらずこの仕事は非常に報酬が高額だった。
ドォォォォオォォンッ!
再び大きな音が響く。先ほどよりもかなり近い上に、音のした方向から何か生暖かい風が吹いてきた気がした。まさか山火事でも起こったのだろうか。
「…なんだ?」
複数の気配が森の奥からこちらへと向かってくる。それを察知した旅人は慌てて近くの木陰に身を隠した。
「っ! クソ! あの女絶対泣かしてやる!」
そんな悪態を吐きながら街道へと躍り出てきたのは一目見て『値打ちものだ』とわかる赤い外套を纏った少年だった。
少年はすぐさま赤い外套を翻しながら自分の飛び出してきた森へと向き直り、両手を素早く動かす。
「爆圧魔法(ファルブレイズン)!」
そう言って少年が両手を突き出すと少年の掌の先に大人の握り拳ほどの光の球が現れた。一瞬の間を置いてから光球は森の中へと飛び去ってゆく。
ドガァァァァァンッ!
「うをっ!?」
突如起こった閃光と爆風に思わず旅人は声を上げる。少し遅れてから熱風が頬を撫でた。
「ま、魔法…?」
恐らく少年が攻撃魔法を行使したのだろう。森の奥がどうなっているかわからないが、今の爆風からしてかなり高威力の魔法行使であったことは間違いない。
「おい、そこの通行人! とっとと走れ! 街に逃げろ! 巻き込まれても俺様は知らん――っ!」
ぶぅぅんっ! という羽音と共に凄まじい速度で森から飛び出してきた影が少年へと飛び掛る。危ない! と思った次の瞬間に繰り広げられた光景に旅人は唖然とする。
「甘いわ阿呆が!」
その言葉と共に黒い影は少年に弾き飛ばされ、旅人の隠れている近くの木に激突してその動きを止めた。信じられないことだが、高く掲げた少年の足があの黒い影を蹴り飛ばしたらしい。
「ま、魔物?」
近くの木に激突したモノをよく見てみると、それは例の噂で聞いた蜂型の魔物のようだった。この街道に魔物が出るという噂は本当だったらしい。
「何をボケっとしている、とっとと走れ! 魔物との戦闘に巻き込まれたいのか!?」
「わ、わかった!」
赤い外套の少年が一体何者なのかは不明だが、あんなに動きの早い魔物との戦闘に巻き込まれるのはごめんだ。旅人はわき目も振らず南東へと走り出した。
―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――
通行人が街の方向へと走っていったのを確認して俺様は気を取り直す。先ほどの爆圧魔法で追っ手の大半は戦闘不能になったようだが、更に多くの追っ手が俺様の元へと集結しつつあるようだ。
「―――っ!」
ぴゅいぃぃぃ、と高速圧縮詠唱による甲高い音が俺様の口から漏れる。その間も俺様の両手は忙しなく動き、虚空に無数の秘印を刻み込む。
全方位から追っ手が接近するのを感じる。既に数は不明、とりあえず三十は軽く超えているようだ。
「行くぞ!」
「みつけましたよー!」
森から街道へと飛び出してきたのは槍を持ったホーネット数体とハニービー二十数体。本来敵対しているはずの両種族はお互いに目もくれず俺様に殺到してくる。
『爆轟魔陣(エスト・アエストゥス)!』
秘印が俺様の周りを取り囲み、次の瞬間激しい轟音と爆風が俺様を中心に広がった。
『きゃああぁぁぁぁぁっ!?』
周辺の森もろとも俺様に殺到してきたハニービーとホーネットの集団が爆風に吹き飛ばされて木の葉のように宙を舞う。
「ええいキリが無い!」
半径三十メートルほどの範囲を地面ごと綺麗に吹き飛ばしたのだが、それでも何体かは難を逃れて俺様へと襲い掛かってきた。流石の俺様も得物を持った複数の蜂達を相手に無手では不利だ。
「ふんっ!」
腰から剣の柄ほどの長さの魔法杖を抜き放ち一振りすると俺様特製の魔法杖はすぐさまその効果を発動し、蒼白い光でできた魔力の刃を形成した。
「く
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