「ほう、これがハニービーの巣か。興味深いな」
木材でも土でもない不思議な材質で出来た巣の内部を見て流石の俺様も感嘆の声をあげる。
床や壁をペタペタと触ったり軽く叩いたりして見るが、俺様の豊富な知識を持ってしても材質の特定は難しそうだ。敢えて近いモノを挙げるなら、蝋で固めた紙と言った所だろうか。強度は段違いのようだが。
「なにしてるんですかー、はやくいかないと女王さまに叱られちゃいますよー」
「はやくはやくー」
知的探究心に駆られて立ち止まった俺様をハニービー達がグイグイと引っ張り、巣の奥へと誘う。
「ええい引っ張るな。分かったから手を離せ」
「駄目、あなたそう言ってさっきから何度も立ち止まってるじゃない」
そう言いながら三匹のハニービーのうち、蜂蜜色の美しい髪の毛をセミロングにしている個体が俺様の背中を押す。こいつが三匹の中では一番しっかり者らしい。
仕方なく未知の材質への探究心をひっこめ、代わりに巣の内部構造を観察する。
巣の内部は外敵の攻撃を想定しているのか非常に複雑な造りになっている。その上一見ただの壁や床に見える場所が次の階層への隠し扉になっていたりする。まともにこれを制圧するとなると、相当苦労することになるのは間違いない。
「あの子可愛いなぁ…」
「そうだね、女王様からお下がりで来たら私が飼ってあげようかな」
「あ、ずるーい。私も混ぜてよー」
そしてなんと言うか、数が多い。
予想を遥かに上回っている。
当然皆女性体だ。
しかもどの娘もタイプの違いこそあるが器量よしの美人、美少女揃いである。
「んっ…ほら頑張って」
「えへへぇー…またおっきくしてあげるねー?」
「も、もう無理だ…や、やめてくれぇ…」
時折こんな感じで喘ぎ声だの嬌声だのが聞こえてくる。捕らえられた人間の男にとっては、ここは天国に一番近い地獄であるらしい。まぁ、腹上死できるなら男冥利に尽きるだろう。俺は絶対に助けてやらん。
「かなり降りたようだが、まだ着かんのか」
「も、もう着く…よ」
前に立って俺様の左手を引くハニービーがこちらを振り返り、蕩けるような笑みを浮かべた。どうも様子がおかしい。
頬には薄く紅が差し、両の瞳は涙で潤み、熱い吐息を漏らしている。他の二匹を見てみると、そちらも同様の状態だ。
各々熱い息を漏らし、潤んだ目は落ち着きなく(俺様を極力俺様を視界に入れないように)辺りを彷徨い、両足をモジモジと切なげに動かしている。
明らかに発情している様子だが、はて? 何が原因でこうなったのか皆目見当もつかない。
『そこまでで良いですよ、愛しい娘達。あとはその方お一人で来ていただきましょう』
頭の中に優しげな声が響く。この頭の中に直接響くこの特徴的な感覚は肉声ではなく念話よるものに間違いない。女王は何か魔術的な力を行使できるようだ。
これは面白い、女王という存在に俄然興味が沸いてきた。
「は、はひ…ひつれいひまふぅ…」
「うぅ〜…」
三匹のハニービーがヨタヨタしながら踵を返して歩き去って行く。そういえば微かに甘い匂いがするが、もしかしたらあの三匹はこの匂いにあてられたのだろうか?
俺にとってはただの甘い匂いでも、ハニービーには何か影響のある匂いなのかもしれない。
少し歩くと例の未知の材質でできた大きめの扉が現れた。先ほどから匂っている甘い匂いは、この扉に近づくほど強くなり、すでに『甘ったるい』と言っても差し支えないレベルだ。
俺様が度を超した甘い匂いに眉を顰めながら扉をノックすると、扉は音も無く内側へと開いた。無論、俺様は扉が開くほど強くノックはしていない。
『さぁ、こちらへ来て。お顔を見せてくださいな』
声に従い部屋の中へと足を踏み入れてみると、内部はやたらと広い空間だった。高い天井から幾重にも大きなヴェールが垂れ下がり、奥に居るのであろうと思われる女王の姿を隠している。
「無意味にデカい部屋だな。ヴェールで区切るくらいなら最初からもう少し小ぢんまりと作ったほうが良かったんじゃないのか?」
俺様が幾重ものヴェールを潜りながら皮肉ると、ヴェールの奥からくすくすと笑う気配がした。
「ここに来た人間で扉を開くなりそんな事を言ったのは貴方が初めてですよ」
「ふん、俺様はそこらの凡人とは出来が違うのだ」
ようやっと幾重ものヴェールを抜ける。
「あら…」
「ほう…」
蜂蜜色の髪を上品に頭の上でまとめ上げ、清楚な純白のドレスを纏った美しい女が豪奢な装飾の椅子――所謂玉座に腰掛けていた。
額に光るティアラと頭頂部の触覚が彼女がハニービーの女王であることを示している。
「少し意外でしたわ、こんなに可愛らしいとは思っていませんでしたから」
「俺様も驚いている。まさかハニービーの女王が完全な人間型 (ヒューマノイド
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