家に帰ってきてからも、ねぇちゃんの様子はおかしかった
やたら俺に近いというか、ひっついているというか…俺の側から離れてくれない
俺が理由を聞いても
「…気にしないで」
と一点張りだ
無表情だし何を考えているのかわからないのだ
「ねぇちゃん、そろそろ夕飯作らないと」
「…ん」
ちゃんと家事をやる辺り、問題は無いんだけどなぁ
「…たくま、危ないから気をつけて」
「いやただ味噌汁作るだけやから…熱っ」
うっかり鍋から出た熱い蒸気に触れてしまう、少しだけ熱かった
「…たくま!?」
「あ、ちょっと触れただけやから大丈夫やで」
「…だめ、見して」
ねぇちゃんに問答無用に手を掴まれる、本当に一瞬だったから何もないんだけど
「…あむっ」
「んぉっ!?」
急に指を咥えられた、おかげで変な声を上げてしまった
「ね、ねぇちゃん何してんや!」
「…消毒」
「怪我したわけやないんやって!」
舌のぬめりとした感触が指に絡みついて、何というか変な気持ちになる
「…じゅる、れろ…ぁ…ん」
「ね、ねぇちゃん…!」
「…ちゅ、んっ…ちゅぅぅぅ…」
「ぐっ…お…!?」
やばっ、これ…指吸われて…
「…ちゅぷっ…もう、平気?」
「へ、平気…やから、離して…!」
「…ん」
ようやく指が解放された、あのままだとヤバかっただろう
「…たくま、休んでていい」
「え、いやまだ料理が…」
「…危ないから」
台所から追い出されてしまった、そんなに危なかったのだろうか
「なんじゃたー坊、シルクの手伝いしていたのではないのか?」
「あ、姉さま…いや、台所から追い出されてもうてな」
「シルクが…何かしたのか?」
「いや、ちょっと熱い蒸気に触れただけで…俺は何もしてないと思うんやけど。なんか危ないからって…」
いや、もしかしたら別のところで何かしてしまったのか?
「シルクは優しい子だからな、無理に追い出したりはしないはずだが…」
「なんや、そもそも今日は様子がおかしかったしなぁ」
「そうなのか?」
「今日、ねぇちゃんと出かけたんやけど…」
ひったくりの件を話す、するとシャクヤ姉さまが納得したようにうんうんと頷いた
「なるほどな、シルクのやつ…それで…」
「何か知ってるんか姉さま?」
「たー坊、お前は昔にシルクと商店街に行った時のことを覚えているか?」
「え、まぁ…うっすらと」
俺が迷子になった時のやつ、だよな…あんまり覚えてないんだけど
「それが原因じゃな」
「原因って…あんまり覚えてないんやけど」
「確かにまだたー坊が小さかった頃だからな、覚えていないのは無理ないか…後でワシからシルクに言っておくからたー坊は気にせず家事に励めよ」
「うーん…そうする」
昔か…何があったんだっけ?
細かくは覚えてないんだよなぁ…でも、原因はそこにあるらしいし
「とりあえず、ねぇちゃんに料理は任せてみんなを呼んでくるかな」
…
「…たくま」
台所で私はさっさと料理を作ってしまう、あまり長い時間たくまから離れるわけにはいかない
「…」
正直今日は浮かれ過ぎていた、たくまと二人きりでのお出かけだったから…だからたくまを脅威に晒してしまった
私がちゃんとよく考えて行動していれば、たくまの方にひったくり犯が向かうこともなかった
間一髪で抑えつけられたけど、あと少し遅かったらたくまが突き飛ばされたり、殴られたり…
ううん、下手をしたらたくまにもっと大変なことをされていたのかもしれない
さっきだって、料理を手伝おうとしてくれたから…怪我をさせてしまった
台所に入れなければたくまが誤って怪我をすることもない、そう…たくまは私が守るの
「…ちゃんと、守るから」
いつだって脅威は目を離した隙にやってくる
これからはずっと側で見守っててあげないと、あらゆる脅威から守ってあげなきゃいけない
「…もう二度と、あんな思いはさせない!」
10年前に、たくまと私は2人でおつかいを頼まれて商店街へ遊びに行った
たくまに頼れるお姉ちゃんを演じたくて、弟にいいところを見せたくて、我先にと商店街を進んでしまった私は後ろのたくまが逸れているのに気がつかなかった
お使いを終わらせて、お姉ちゃんは凄いんだよって後ろを見ると、後ろについてきているはずの弟はいなかった
我ながら馬鹿だと、なんで気付かなかったのかと思う
弟にいいところを見せたいという姉心で、まだ小さな弟を危険に晒してしまった
誰かに連れ去られたらどうしよう…危険な場所に行ってはいないか
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