昔から、僕はよく笑う明るい子だったらしい。
笑うこと、泣かないことを…覚えて無いけど誰かに約束した気がして、泣かない様に明るく振舞ってきた
ただ、両親が事故で他界したあの日だけは…僕はその約束を守れなかった。
大好きな両親だった、いつも優しくて…愛情いっぱいに僕を愛してくれていた。
笑いが絶えない家庭で、これがずっと続くものだと思い込んでいた…しかしそんな幸せが壊れるのは一瞬だった。
突然の交通事故、それもかなり大きな規模で発生して僕の両親は巻き込まれて亡くなった。
きっと、今まで生きてきた中で一番泣いた。
涙が出なくなっても、嗚咽を漏らし続け…そして、両親の後を追うことも考えた。
"もう、泣かないで…って、約束したのに"
そこに立っていたのは僕が生まれた時から居間に飾られている、芸術品の様な気品がある古いアンティークドールだった。
普段は感情のない、無の顔をしていてそこに生気は感じられないが、今はまるで生きているかの様に表情を変え、動いている
人形が勝手に動き出す…ありえない光景だが、何故か僕は、まるで生きている様な今の彼女を知っている様な気がした。
「君は…人形の…」
「アロマ」
アロマ、彼女はそう名乗った。
アロマ、あろま…初めて聞く名前のはずなのに、とても呼び慣れた名前だった。
「また泣き虫さんなのね…泣かないって、約束したじゃない。」
「…無理だよ、そんなの…悲しくて、苦しくてたまらないんだ…」
「…そう、だったら仕方ないわね。」
となりに座った小さな身体の彼女は、そのまま僕のことを抱きしめた。
あぁ、なんだかずっと前にもこんなことがあった気がする…懐かしい、母さんがこうしてくれたのかな
人形が動いているなんて、きっと夢だろうけど…夢でもいい、少しでも長く…この温もりを感じていたい
「また、貴方が泣かないで笑えるときまで…側にいてあげるから。」
「…」
「貴方が泣いていると、私は落ち着かないの。」
…
両親が他界して、何故か家に飾られていた人形のアロマが動き出して僕の世話をし始めたのが数年前の出来事だ。
一時の夢かと思っていたが、今まで暮らしてきてアロマは生きている人形という超常的な存在で、そのそんざいはどうやら夢ではないらしい。
アロマは昔両親に拾われてからずっと家にいて、両親はもちろんのこと僕のこともよく見てきたのだとか。
ただし本来であれば知られざる存在として人前に姿を現わすことは無いはずだった、とアロマから聞いた
あの日、僕が泣いたから放っておけなかったと、アロマは言った。
あの日、僕…松風カオルが泣かなかったら…アロマには出会えてなかった。
あの日、僕は彼女に救われた。
…あの日以来、僕は笑うことができない。
「カオル
#12316;
#12316;
#12316;!朝よ、起きなさい
#12316;!」
ドタバタと騒がしく部屋に入ってくる小さな身体の女の子、フリルのついた可愛らしい服に煌びやかな金髪。
宝石の様な碧い瞳で、芸術品のような作り込まれた美しい顔立ちの彼女…生きた人形のアロマだ。
「…あぁ、起きてるよ。アロマ。」
「あら、いい子いい子
#12316;♪ちゃんと起きていてえらいですわね
#12316;♪」
「朝起きるだけで褒められる世界、チョロいね」
「さぁ、朝ごはん出来てるから降りていらっしゃい」
「はいはい、分かってるよ…っと」
「きゃっ、急に抱っこして…レディを気軽に抱えるものじゃありませんことよ?一言かけて下さいまし。」
「いいじゃん、この方が楽でしょ?それに、ちょっと昔のこと思い出してさ…アロマのこと、もっと感じてたいんだ。」
「あらあら…もう、しょうがない子ね。ほらほら、早く行きましてよ。」
ちょっと文句を言うアロマだが、甘んじて抱っこさせてもらう…この程よい重さと暖かさが、アロマの存在を実感させてくれる。
「今日は学校もお休みねぇ、こんなにいい天気だしどこか出かけるかしら?」
「…いや、家にいるよ。外出ても楽しくないし、アロマといた方が楽しいよ」
「あらぁ、嬉しいこと言ってくれるのね♪それじゃあ一緒にテレビでも見ましょうか」
朝食後、今日は学校も休みなので家でアロマとのんびりすることにした
リビングのソファに座り、膝の上でアロマを抱えてテレビのチャンネルを変えていく
「面白いテレビやってないなー」
「この前録画したお笑いの番組はどうかしら?なかなか面白かったからオススメでしてよ」
「…アロマって、その見た目でお笑いとか好きだよね」
「いいじゃありませんの。人を笑顔にする番組
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