「ただいま、母さん」
勉学に励み夜遅くに学校から帰ってきた俺は、何時ものように真っ直ぐ自分の部屋に行く
そうして棚の上に飾ってある「人形」に帰ってきたことを告げる、すると人形から返事が…あるはずもない
相変わらず「人形」の母さんは精巧に作られた笑顔と虚ろなガラスの瞳を動かさないまま、しかし俺は物言わぬ人形と会話するように話しかけ続ける
「今日は学校でテストがあったんだ、まぁ自信はないけどさ…でも母さん、最近は頑張って結構遅くまでテスト勉強してたでしょ?平均点くらいは出せると思うんだよねー」
俺は母さんを抱えてベッドに座る、そうしてまるで本物のような髪の毛を指先で軽く撫でながら母さんに話しかけ続ける
いくら話し掛けようが人形からの返事はない…なのに何故、俺はずっと話しかけているのか、それは俺がまだ小さい頃の話だ
今から十数年前、俺…涼木リクの前から突如として両親が居なくなった
家で両親が帰ってくるのを待っていた俺の元に来たのは、青い制服を着た大人が数人…両親が交通事故で亡くなったということを知らせに来た警察官だった
細かい詳細は覚えていない、ただでさえ小さい頃だったから…酷い事故だったらしく、遺体は無かったのだけは覚えている
それから身寄りを失った俺はしばらく親戚の人の世話になっていて、ある程度自立してからは一人暮らしをしている
あの両親が亡くなった際に、遺品などいろいろと整理された中で…家族の写真と共に渡されたのが、あの人形だ
小さな頃は本当に人間かと思ったぐらいの、驚くほど精巧に作られた人形…大きさは当時の俺と同じくらいで、不思議とその人形と一緒だと両親が亡くなった悲しさが安らいだ
キラリとした宝石のようなガラスの碧眼…ふわふわとロールがかかったプラチナブロンドの髪、精巧に作られたであろう幼い身体…そんな少女の姿の人形
元々は母さんが大切にしていた大事な人形、と親戚の人は言っていた…俺も前に母さんの部屋で見たことがあった、その時はあまり興味がなかったけど…
そして小さかった俺はその人形を「母さん」と呼んでその寂しさを誤魔化して来た、何かあればすぐに母さんに話したし、何か無くても何かと母さんにずっと話しかけてきた
だから今でも母さんには話し続けているし、手入れだって欠かさない、いま俺がいるのは紛れも無く母さんのお陰だから
でも、もしかしたら、こうやってずっと話しかけていれば…魂とか宿ってくれたりするんじゃないか、なんて夢見たりもする
小さい頃からずっと一緒にいて、話しかけてきたから…俺には随分と前からこの人形がいきているんじゃないか、とか考えたりするようになっていた
ありえない話だけど、大切にしていたら物にも魂が宿ったり…そんなことをまた夢見ながら俺は母さんを抱いてそのままベッドに横になった
そうして学校の疲れからすぐに意識が薄れていく、あぁ…夜ご飯食べなきゃ…いや、明日休みだし…朝早くでいいかな…
…
「…ん」
ぐっすり眠っていただろうか、気怠さを覚えながらも体を伸ばしてシャッキリと目を覚ますと俺はベッドから出てちょっと早い朝ご飯を作るためにリビングに降りてくる
「昨日は夜食べてないから腹減ったなぁ…」
リビングに降りてきた俺の目の前には、ありえない光景が広がっていた
そこにはテーブルの上に色取り取りの料理が並べられていた、湯気が立ちふわりと美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる
勿論俺が作ったわけではない、多少なりとも家事はできるがここまで上手いわけじゃない
そうしてわざわざ俺に料理を作りに来てくれる人なんていないし、頼んだ覚えもない
「
#12316;♪」
そして何よりも信じられないのは…おれにとって馴染み深い格好をした"何か"が今なおキッチンで調理をしていることだ
背が圧倒的に足りていない為、椅子の上に立ち調理している後ろ姿は何か微笑ましくも見えるが、そんなことを考えている場合ではない
「あ…あ、あぁ…?」
「…あら!ようやく起きたのだわ!もう少しで準備出来るからいい子にお座りしてなさい♪」
口をあんぐりとして驚愕していると、その"何か"は声を掛けてきた…これはまだおれは夢を見ているに違いない
じゃないと何もかもが説明つかない、そうだ…これは夢だ
俺の母親、アンリエッタはただの人形なのだから
「は、はは…凄い、夢だなぁ…アンリエッタが、母さんが喋ってるよ…それに料理もしてる…それに触れるし、匂いまで…」
席に座り料理の皿に手をつける、温かいしいい匂いもしてくる…まるで夢とは思えないリアルな感覚だ
「あっ!こら、まだ食べちゃだめよ!お腹空いてるのも分かるけど、もう少しで
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