ふと僕は目を覚ました、どうやら…もう朝のようで陽の光が部屋から差し込んでいた
「あら♪目が覚めたのね、おはよう…ちゃんと起きれてえらい子ね♪よしよし♪」
僕が目を覚ますと、ひょっこりと目の前に現れた小さな女の子がベッドの上の僕の頭をわしゃわしゃと撫でる
「ちゃんと毎日決まった時間に起きるなんて、なかなか出来ることじゃありませんのよ♪すごい子ね、褒めてあげる♪」
頭を撫でる彼女、その彼女は普通の女の子よりも小さくまるで人形のようだった
それもそのはずだ、だって彼女は正真正銘「人形」だから
最も、ただの人形ではなく彼女は生きている…所謂リビングドールと言われる存在だ
「あらあら、朝の挨拶ですの?ちゃんと挨拶まで出来るなんて、素晴らしいですわ♪えらいえらい♪」
僕が何かする毎に、彼女はソレを褒めちぎる…僕はそれを受けて気恥ずかしくなりすぐ側の彼女の身体に顔を埋めるようにして抱きしめた
「きゃんっ♪もぉ、恥ずかしがり屋さんなんですから…ふふっ、でもちゃんと恥ずかしがれてえらいですわ♪ちゃんと私のこと、私の思いが伝わっているってことですものね…よしよし、あなたはなんて可愛らしい子なんでしょう♪」
その恥ずかしがるのでさえ、彼女には褒める要因になってしまう…彼女は僕が生きているだけで褒めてくれるのだ。
僕のことを否定することなんてなく、なんでも優しく受け入れてくれる…そんな彼女との生活がもう何日も、何十日も続いている。
外に出ることもなく、彼女とずっと二人きりで愛でられて愛されて、褒められ続ける生活だ
なんで僕がそんな生活を送るようになったのか…それは僕が彼女と出会ったあの日のことだった。
…
僕が彼女に出会ったのはもうどれくらい前だっただろう、その頃の僕はまだ人間社会の柵に揉まれながら精神をすり減らしていた
毎日同じような、遅くまで上司の罵詈雑言に心を壊されながら押し付けられた仕事をただこなしていくだけ…いくらこなそうが仕事は雪崩のように流れてきて、会社に泊まらない日が珍しかったものだ
そんなある日、たまたま会社から早く退勤出来た(といっても、0時前で終電ギリギリだったが)ので僕は電車に乗り家に帰ろうと…しなかった
その時にはもう僕の精神は壊れていたのだろう、僕は家に帰ることなく…電車での行き先は全く違う人里離れた山奥の駅だ
決して山奥で自殺をしよう、なんて考えていたわけじゃなかった…と思う、あの時は頭がどうにかしていたのであまり覚えていないけど
そうして駅に降りて僕はもうフラフラと山の中を彷徨い始めた、頼りになる光は何もなくて暗い暗い闇をただひたすらに歩いていた
そこに何があるのか、なんて分からなかったけど…何故かその足に迷いはなくどんどんと深く山の中を進んでいく
そうしてどのくらい歩いたのか…気がついた時には僕の目の前には大きな館があった、廃墟…というわけではないみたいで窓からは明かりが点いているのが分かった
なんで、僕はこんなところに来たのだろう?そんな疑問が頭を過ぎったが、僕の身体はその館へと進んでいく
そしてその館の大きな門は僕が触れる前に音を立てながら、僕をその館へと歓迎するかのように開いた
中に入ると、その中は豪華…というか何というか、洋風な内装の美術館みたいな感じだ、石の彫刻とか高価そうな壺が置いてあったりする
「あら…こんな時間に、お客様ですの?」
僕が周りを見渡していると、鈴の音のような声が僕の耳に届いた…この館の主だろう。僕は今、完全に不法侵入者だが…何故か焦りや戸惑いはなかった
「こんばんわ、こんな神様も眠るような夜更けに何か御用かしら」
僕が声のする方へ目を向けると、僕のいる玄関の広間からすぐ前にある大きな階段の上から女の子が見下ろしていた
ふわりとしたウェーブのかかったブロンドの髪、透き通るガラス玉のような碧眼…そして可愛らしいリボンのついたフリルのロリータファッション、背丈は階段の手すりに届かないような…僕の身体の半分ほどしかない、幼い女の子だ
しかしその女の子は、見た目より遥かに成熟しているような妖艶な雰囲気を醸し出す…どこか浮世離れしたような少女だった
「あらあら…随分と疲れたお顔をしていらっしゃるのね、こんなに窶れて…」
いつの間にか階段の上にいた少女は僕の目の前に現れていた、そしてその小さな手を僕の顔にそっと触れるとじっと僕の顔を見つめてそういった
すぐ目の前にいる少女の顔に僕は目を奪われた、階段の上からでもはっきりと美しく分かった容姿だったが…至近距離で見てみるとその顔はあまりにも整い過ぎている、まるで人の手によって造られたような美術品のような完成された美しさだっ
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