「ああ…今日も終電逃しちゃったよ」
俺、谷岡ユウトは街灯だけが道を照らす暗い道をそう呟きながら歩いていた
「大体さぁ…始業が朝7時なのに就業が0時過ぎって頭おかしいだろ、仕事も辛いし…なんでこんな超絶ブラックな会社に俺はいるんだ…」
自分の会社に毒を吐きながら俺は重くなった足を進める、終電を逃したとはいえ家までは歩いて帰れない距離ではなかったのが幸いだった
「あーあー…もうやめよっかなこの会社、でも転職とか出来る気しないしなぁ…てゆーか辞めさせてもらえるのかなぁ」
フラフラと千鳥足で俺はもはや見慣れた道を歩いていたけど、あまりの疲れに気をおかしくしたのか…何故かいつも帰る道とは違う道に出ていた
知っている道ではあったので特に気にせずそのまま家に帰ろうと道を進んでいくと、ふと視線の端のゴミ捨て場が目に入った
そこには…まるで新品同様の綺麗で可愛らしいドールがただ一つだけ大人しく座っていた
「なんだ?明日はゴミの日じゃ無かったはずだけど…」
俺はつい気になってしまい捨てられているドールを拾い上げる、暗い夜道のはずなのに何故かその人形だけは月明かりに反射してぼんやりと光っているように見える
「綺麗な人形だな…アンティークドールっていうのか?見たところ新品みたいだけど…誰だよこんなところに捨てたのは、勿体ないじゃん」
汚れ一つないその美麗な姿は、仕事の疲れすら忘れさせるほどだった…俺はすっかりそのドールに魅了されてしまい、家に持って帰ってきてしまった…
「…うーむ、つい持って帰ってきてしまったなぁ」
俺は家に帰り明るい部屋でまじまじとドールを見据える、フリルのついた可愛らしい服を着てちょこんと座る女の子のドールだ
幼い少女の姿で銀色のふわふわとした髪とぱっちりとした碧眼がとても綺麗だった
「まぁ、仕事の気分転換ってことで…?」
持ってきてしまったものは仕方がないだろう、どうせこんな綺麗なドールが捨てられてしまっていたのだし…家に華やかさを持たせると思って飾ろう
「とりあえずベッドの脇にでも置いておくかな…」
俺はとりあえずドールをベッドの脇に座らせるように置く、明日も早くから仕事だしなるべく睡眠時間を取りたいので俺は電気を消してベッドに横になる
部屋のカーテンの隙間から差し込む月明かりがドールのシルエットを映しているのが目に入り、俺は暗闇の中でぼんやりとドールを見つめる
まるで生きていても不思議じゃないくらい精巧に作られているそのドールはシルエットだけでも美しさが伝わってくる
…うちの会社はあんなに醜いほどブラックなのになぁ
「…はぁ、会社…嫌だなぁ」
ドールの美しさを感じるたびに会社の醜い箇所が頭を巡り、自然とそう口に出していた
その言葉を返してくれる人はいない、その言葉は音のしない部屋に吸い込まれていく
聴いているのはおそらく、物言わぬドールだけ
「…人形の君に言っても、分からないか…俺の会社、仕事はキツいし人間関係は悪いし、残業代は出ないし…ともかく最悪なところでさ」
物言わぬドールに俺は心の内を話していた、言葉を返してくれるはずないが…不思議とドールはちゃんと聴いていてくれているような気がして、自然と口から出ていたのだ
「もうやだよ…会社も何もかも…またあの頃に戻りたい…会社とか、そういう辛いのが無かった小さい頃にさ…」
ドールに話しかけるたびに俺は一つ一つ心が軽くなっていった、今まで誰にも話さずに溜め込んでいたものが無くなっていったからだろうか
「俺の親…今はもういないんだけど、まだ小さい頃は母さんがよく俺を可愛がってくれてさ…友達もたくさんいたし学校だって楽しかったんだ…」
そうやってドールに話しかけていると、だんだん睡魔がやってきて俺を深い眠りに誘ってくる
「…母さん…」
そうしていつの間にか俺は意識を深い眠りの世界に手放してしまっていた
「…」
深い眠りに落ちる瞬間、何か優しいものが頭に触れた…そんな気がした
…
「…んん」
俺は久々に目覚ましが鳴る前に目が醒める、心なしか沢山睡眠を取ったかのように身体が軽い…
「あぁ…仕事に行かなくちゃ…今何時だろ」
そういって部屋の時計を見て…俺は凍りついた
時計の針は既に12時を回り、1時に差し掛かっていた…無論外は明るくて、それが真夜中ではないことを証明していた
「あ…ああぁっ!」
完全に寝過ごしてしまっている、大幅な遅刻だ…会社に何て言えばいいのだろう
「と、とりあえず今からでも仕事に…!」
「その必要はありませんわ」
俺が慌ててベッドから降りると聞き覚えのない女の子の声が聞こえた、テンパり過ぎ
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