人形のお母さん

「さーて、掘り出し物はあるかな〜っと…」


俺、安斎レイイチは埃が充満した薄暗い蔵へと足を踏み入れる


先日お爺ちゃんが亡くなったのでその遺品整理に俺が駆り出されたのだ、いくら学生だからって暇ってわけじゃないんだけど


うちのお爺ちゃん、まぁまぁのお金持ちで家もそこそこ大きく一人で遺品整理となると大変だ…まぁ遺品整理って言っても中にあるものとかの確認だけだからそこまでじゃないか


「親戚の人たちは、欲しいものは適当に貰っていいって言ってたからな…高そうなものは貰っちゃおうっと」


あわよくば某鑑定団かなんかに出して一攫千金も夢じゃないぞ、とふざけながらも俺は蔵の中の物を確認していく


中の物は本当に使われていないようなものばかりで、値打ちになりそうなものなんて全くなかった


「オイオイオイ〜、マジかよ〜」


何か面白いものでも見つかれば良かったけど、特に見つからなかった…これはもうテンションだだ下がりである


「まぁよくよく考えたら値打ちのあるものは蔵に入れないで飾ったりするもんなぁ」


俺は適当に蔵のものを確認する、すると見落としていたのか蔵の奥に中身の確認していない木箱を見つけた


「おや、こんなの見落としてるとは鷹の目と言われた俺も鈍ったかな?言われてないけど」


俺は奥から木箱を持ち出す、結構大きくて小さな子供ならすっぽり入ってしまいそうだ


中身は何か入っているようで、ずっしりと重いが…持てない程の重さではない…中身はなんだろうか


「鍵とかないよな…おっ、開いてんじゃーん!」


木箱は普通に蓋を蝶番で繋がっているだけで、ぱかっと開いてしまった


「中身…は…」


数瞬俺は言葉を失った、木箱の中身は…


「…」


人、それも小さな女の子だ…木箱の中に横たわって目をつむり、ピクリとも動かない


ずっと放って置かれていたのだろうか、埃で薄汚れてしまっているが…その綺麗なふわりとした紫の長い髪に可愛らしい子供服、幼くも整った顔は見ていると吸い込まれそうになる


触れてみるとぷにっとした柔らかい皮膚の感触、そして仄かに暖かい…気がする


「って、人形かこれ?」


木箱の中に横たわっている少女をよくよく見てみると、どうやら作り物の人形のようだった


ただあまりにもリアル過ぎて普通に生身の人間だと勘違いしてしまった、よく出来すぎているし薄暗い蔵の中じゃよく見ないと気づかなかった


「なんだよもう、事件かと思っちゃったじゃん〜」


俺は木箱から人形を抱え上げた、本当に人間サイズでよく見ないと、いやよく見ても分からないレベルだ…人形だから実際より少し軽いが、肌の柔らかさなど抱いていると勘違いしてしまいそうになる


「はぇ〜、すっごいリアル…こりゃ相当凄いもんだぞ!」


凄いものを見つけた俺はさっさと蔵のものを確認してしまって早々にお爺ちゃんの蔵を後にした、そしてもちろんあの人形を持ってウキウキで家まで帰るのだった


「たっだいまー!」


誰も返事のしないいつも通りの家へ帰ってくる、それもそのはず…俺は3年前に親を亡くし一人暮らしをしているからだ


父親は物心ついた頃にはもう亡くなってて、母は元々病弱で俺がある程度大きくなるまでは頑張ってくれていたが…体調を崩しそのまま逝ってしまった


まぁうちは親戚も多いから寂しいとはいえそこまでではなかった、別に何か家庭の問題があったわけでもなかったしね


「まぁそんな寂しい一人暮らしは今日で終わりだ!なんたってお爺ちゃんのとこの人形が新しい家族だからね!」


俺は抱き抱えた人形を下ろしてソファーに座らせてやる、大きいソファーにちょこんと座る様子は実に可愛らしい


「さて、と…とりあえず汚れちゃってるし、風呂…は直接はマズイかな?おしぼりとお湯持ってくるかな」


俺はささっと洗面器に湯を張り、適当なおしぼりの布を幾つか用意してやる


「さぁて、綺麗にしてあげようかね。はいパパッとやって、終わり!」


服を脱がせて人形を裸にしてやってからお湯に浸しながら優しく汚れを落としてあげる


脱がした裸の人形、そこまで拘らなくても良かっただろって言いたいくらい作り込まれていてちょっと興奮しかけてしまった…危ないよ俺


「服は…とりあえず洗濯機に入れとくか、すぐ洗えるだろうし、この子はとりあえずタオルかなんか巻いといて大丈夫かな」


一通り終えてしまって俺は一息ついてソファーに座る、膝に向かい合うように人形を載せてみる…


「あれ?」


いつの間にか人形の目が開いている、蒼い碧眼が俺のことをじっと見据えている…ような気がした


「洗ってるときに瞼が開いたのかな、いやぁよく出来てるなぁ…」


まだ湿った髪を指先で梳かすように
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