マザードール

気紛れ、そう…ただの気紛れだった


俺、萩野ヒロシは昨日の学校の帰り道にふと道路脇にポツンと座っていた綺麗な人形をひろった


アンティークドール、というものだっただろうか?ゴシックロリータの様な衣装を着た幼い女の子の姿をした小さな人形に、何故か興味を惹かれて家まで持って帰ってきた


ただの気紛れだったのだ、一人暮らしで寂しかったのもあるし家にあればインテリアとして飾ったら華やかになるかと思って持って帰ってきただけなのだ


しかしソレは、ただの人形じゃなかったらしい…今日目が覚めた俺が最初に見たものは


「ごきげんよう、良い朝ですわね」


昨日ひろった人形が俺の上で、ちょこんと座ってこちらに挨拶をしていた姿だ


「…」


「あら寝ぼけてるのかしら?まったく、仕方のない人ね…ほら、起っきしなさい」


ぺちぺちと小さな手で顔を叩かれた、いや叩かれたと言っても非常に優しいもので強くはない


「…起きてる」


「まぁ、起きてたのかしら…それじゃあ朝の挨拶ね」


「…おはよう」


「ええ、おはよう…いい朝ね。よく挨拶ができて偉いわ、よしよし♪」


言われるがままに挨拶をしたら人形の小さな手で頭を撫でられた、いや待て待て…俺はまだ寝ぼけているのか?


そうだそうに違いない、昨日拾った小さな人形が子供くらいの背になっていてまるで生きているかのように動いて喋っているだなんて考えられない


「…ぐぅ」


「こらまた寝ちゃダメよ、夜はとっくに明けていましてよ」


頬をみょーんとつねられた、その目の痛みを感じるにどうやら現実のようである


「いてて…」


「さ、もう朝ご飯の準備は出来てるから…行きましょう?」


「ふぁい…」


人形に手を引かれて俺はリビングへと降りてきた、一体何が起きているのだろうか?


「朝は優雅にトーストにベーコンエッグ、お飲み物は紅茶でよろしかったですわね?」


「え、あ、はいっ」


テキパキとテーブルに並べられていく朝食、凄く美味しそうだけども…とりあえず状況を整理したい


「えっと…」


「何かしら、何か苦手なものでもありまして?」


「いや、無いけど…ちょっと待って、君は何?」


「それはどういう意味かしら、存在的な意味?それとも身分的な意味かしら…」


「ええと、君は…多分俺が昨日拾ってきた人形、だと思うんだけど…?」


もし違うなら、俺が人形を拾ってきたことを知っていてそれで人形と同じ格好をした怪しい子供になるわけだけど…


「間違いはありませんわ、私は確かに昨日拾われた人形ですの」


「…じゃあ、なんで人形なのに大きくなったり動いたりしてるんだよ」


「それは私がリビングドール、つまりは魔物だからですわね」


まるで当たり前かのように彼女はそう言った、リビングドール?魔物?何を言っているんだ…


「あら、不思議そうなお顔をなさってますわね。つまり私は普通のお人形じゃなくて、生きたお人形ってことですわ」


「人形なのに、生きてるって…」


理解がイマイチ追いつかない…どうみても人形というよりは人間に見えるが、状況から見るに嘘ではないんだろう


「えっと、お人形さん?」


「まぁ、私にはアメリアという名前がありましてよ」


「あ、アメリア…ちゃん」


「子供扱いは嫌いですの、ちゃん付けはよしてくださいな」


このアメリアちゃん、結構おませな子のようだ


「アメリア…?」


「はい♪」


にっこりと微笑むこの少女にドキッと胸の動悸が高まった気がした、こんな小さい子に俺は何を感じてるんだ…


「とりあえず朝食をいただきましょう?せっかくのお料理が冷めてしまいますの」


「あ、あぁ…うん」


そう言われて俺はテーブルに並べられた料理に手をつけようとする、しかしそこに箸やスプーンなどの食器はなかった


「はい、あ
#12316;ん♪」


そしてアメリアはにっこりと微笑みながら、箸でつまんだ料理をこちらの口元へよこした…


「え、何」


「何って、この私が食べさせて差し上げようと…」


「いやいや、子供じゃないんだから…」


「あら、私から見れば十分子供ですわ。こうみえて私、結構お姉さまなんですのよ?」


ふふん、と鼻を鳴らすアメリア…いやそんな小さな姿で何を言うのか


「ともかく、私が食べさせて差し上げようと言うのですから遠慮せずにどうぞ」


「いや、まぁ…そこまで言うなら」


相手は子供だしテキトーに相手すればそのうち飽きるだろう、と俺はつままれた料理を口に含む


「あ、おいし…」


「でしょう!ふふ、料理には自信がありますのよ♪」


こんな小さな身体でよくキッチンで料理ができるものだ、と感心する…うち
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