俺、砂山トシヤ恵まれた環境にいると自分でも分かる
家庭の都合で十分過ぎるほどの仕送りで自由気ままな一人暮らしだし、今いる家は一人じゃ広過ぎるマンションの一室
不自由なんて何一つない素晴らしい環境のはずだ、しかし俺はこの家にやってきてから何か楽しむと言うのをすっかり忘れてしまっていた
何かに忙しい、というわけではないが…友達と遊ぶにしてもゲームするにしてもずっと何かが足りない
その原因を俺は知っている、知っているが…どうにかなるもんじゃない
俺には姉がいた、姉は魔物でラミア種の…普通とはちょっと違うバジリスクという魔物だった
俺がこっちで一人暮らしをする少し前…姉は魔物としての力を制御出来なくなってしまったらしく、その影響が及ばないようにするために親が俺をこちらに避難させたのだ
当然俺は反対した、俺は姉が好きだったし一人暮らしに不安もあった
そんな俺が承諾して今この家にいるのは、姉自身に叱られたからだ
その時のことは今でも鮮明に覚えている、何しろそれが俺の中の最後の姉だったから
「もう、トシくんっ…お父さんとお母さんを困らせたらダメだよ…っ?大丈夫だから、いい子のトシくんなら…お姉ちゃんの言うこと聞けるよね…?」
姉はその時の、大きく目を覆う仮面を着けていた…後で話を聞くと、あの時すでに制御が効かなくなっていた状況だったらしい
バジリスクというのは魔眼という、目に特殊な力が宿っている。バジリスク自身その力を上手く制御出来ないので、基本的にみんな目を塞ぐ仮面をつけるのだとか
姉もその例に漏れず、成長して力が制御出来なくなってしまって…その力が及ばないように仮面を着けていた
小さい頃は力が未熟なため仮面をつける必要はないそうで、昔は姉の顔…目を見ることができたのに
そんなわけで俺は姉がいないこの生活に退屈しかなくなっていたのだ
…というのは今までの話だ、なんと今日その姉がこっちの家に来ることになった
力を完全に制御出来たわけじゃないが、仮面を着けたままなら力の暴走とかはしなくなって危険がなくなったらしい
俺も一人暮らしである程度立派になったから、親が一緒に暮らすことに許可を出してくれたそうだ
あの日から一度も声を聞いてない、姿も見てない姉がようやく戻ってきてくれるんだ
「…!来た!」
部屋のインターホンが鳴る、俺はドタバタと玄関まで駆け寄ってドアを開けた
「おかえり、スクナねぇ…!」
「ただいま、トシくん…っ♪」
そこには記憶とあまり変わらない姉の姿があった、後ろ髪を長いおさげにして…ラミア種特有の長い下半身で、やはり目を塞ぐ仮面。
変わっていたのは成長して大きくなった身体くらいのものだ
姉…スクナねぇは身体全体を絡みつかせ俺を抱きしめる。
俺も今までの寂しさを埋めるように強く抱きしめた
「ふぁ…っ…♪」
するとスクナねぇが顔を真っ赤にしてフラリと倒れ込んできた、もしかしてここまで来る間に何かあったのだろうか
「す、スクナねぇ!?」
「と、トシくん…っ、ちょっ、と…近過ぎ…っ…♪」
そう言うとスクナねぇは少しだけ俺から離れると深呼吸する
「大丈夫、スクナねぇ」
「ご、ごめんね…久しぶりで、ちょっとだけ刺激が強過ぎたみたいで…」
そういえばバジリスクは仮面で目が見えない代わりに優れた知覚能力があって、側に近過ぎると刺激を強く感じ過ぎて大変だとか
「ううん大丈夫だよ、俺も不用意に近寄り過ぎたみたいで…もうちょっと気をつけるよ」
「うぅ…お姉ちゃん的にそれも悲しいよぉ…」
「えっ、じゃあ近寄る?」
「そ、それはもっとダメぇ…っ!」
うーん、バジリスクというのは距離感が難しい魔物のようだ
「でもよかった…トシくん、立派になったんだね…♪」
「えっ、見えないでも分かるの?」
「うん…さっき抱きしめた時にね」
「まぁ、俺もスクナねぇに甘えるだけじゃなかったってことだな」
「…トシくん、よしよし♪」
不意にスクナねぇに頭を撫でられる、久々だな…こうやって頭を撫でられるのは
「ん…スクナねぇ」
「トシくんはえらいね…私が迷惑を掛けたのに、こんなに立派になって」
「えらくなんてないさ、ただ寂しさを誤魔化してた結果だよ」
「…もう、これからはお姉ちゃんが一緒だからね…寂しくないよ」
ぎゅっとスクナねぇが抱きしめてくれる、これも大分懐かしいな…この長い身体の柔らかくてスクナねぇの甘い匂いがして落ち着く
「スクナねぇ、自分から近づくのは大丈夫なんだ?」
「うん、不意に来ると刺激が強くてびっくりしちゃうだけだから…」
「…ねぇ、スクナねぇ…もうち
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