優しくて甘い毒

俺、寒河江(さがえ)リョウは都会を離れて懐かしい生まれ故郷にやってきた


都会の騒がしくも冷たい空気とは違う静寂な、それでいて暖かな空気のこの地方にやってくるととても懐かしい気分になった


別に俺はそんな懐かしい生まれ故郷を観光や、帰省しに来たわけではなく…仕事があってわざわざ都会から何時間も掛けて故郷まで帰ってきたのだ


俺の仕事は生物関係の研究…微生物から魔物まで幅広く研究しており、その中でも俺はまぁまぁ若いながらもある程度の功績を挙げている


普通俺くらい若いとなると、その道の仕事に就いたばかりの新人…当然功績などそうそう挙げられるものではない


しかし俺は期待の若手新人…というわけではなく、両親が研究者であり小さい頃から仕事を手伝っていて周りより経験や知識は豊富ってだけであり、特別出来が良い訳ではない


「さて、懐かしさに浸っている場合じゃないな…仕事仕事」


今回俺に任された仕事は、地方の山に出る怪物の調査をしてほしい…とのことだった


最初は耳を疑った、こんな仕事が俺に任されるなんて…そもそもこの山に出る怪物って言うのは噂や言い伝えみたいなもので確実性が無いに等しい


大昔ならば未確認生物、ネッシーやツチノコと同様にいないという事で議論は終わる筈だった。しかし、今世界には俺ら人間の他に魔物と呼ばれる知的生命体が存在している


もしかしたら人間社会に溶け込めない逸れた魔物かもしれないということ、それから新しい生物かもしれないからという理由で研究室に仕事が来たらしい


(そもそも俺はこの地方出身で、その件の山で遊んだことがあるが全くその話は知らなかったし…ただのデマだとは思うんだけど)


たまたま空いている研究者が俺で、なおかつその地方出身だということで駆り出されてしまった…というかこう言う捜索の調査は研究者に依頼するもんじゃ無いだろうに…


「やれやれ、まぁ仕事だからなぁ…探していなかったら久々に故郷を満喫して帰ろうかな」


俺は仕事資料として渡された紙束を鞄から取り出す、目撃情報や場所など捜索に必要なことが記してあるのでこれを使えということだ


この地方には研究内容自体は違うが、俺が所属している研究所と同じような研究所がある。そこは昔、俺が両親の手伝いで出入りしていたこともあり知り合いもいる


俺一人では大変そうなので、知り合いを頼りにその研究所へ足を運んだ。アイツは俺と同じ年で俺と似たような、親の手伝いで研究所に出入りしていた


俺と違って優秀で、よく名前を聞くので元気にやっているようだしこの仕事も手伝ってもらおうかと思ったのだが


「あぁ、アイツなら暫く前に「姉達に会いに行く」って研究所開けてるよ」


「なんと」


どうやら暫くいないらしい、そういえばアイツには5人の魔物の姉がいるのだと聞いたな…


「どうやらその中の誰かと結婚するんだとか…あくまで噂だけどな」


「何ぃ、アイツ女には興味ありませんよーって感じだったのに…俺にも出会いがほしいなぁ」


「君は生物関係の研究者だろ、魔物も例外じゃないだろうし上手くいけば…」


「周りは結構そうなってるんだけどなぁ…俺には全然ない。…言ってて悲しくなってきたからそろそろ行きますか、アイツにはよろしく言っといて」


そういって俺は地方の研究所を後にした、どうやら仕事は一人でやれということらしい


山の所有者や近隣の村には話が通ってるから、好きに調査をしてくれってことなのだが…まずどうしようか


とりあえず資料の目撃情報に目を通してみる


「ふむ…」


長く大きなムカデのような姿が見えた…女性の声もした…人は襲われてない、襲われたと思われる動物の死体を地面に埋める習性を持つ…


「俺があの山で遊んだときはそんなもん見なかったんだけどなぁ…目撃情報とかは結構詳しいな」


俺はまず、女性の声という点に着眼した。人とは違う姿持ち、それでいて人間の女性に近いのが魔物だ…魔物には基本雌しかいない、人間から変異するインキュバスは例外だが


ムカデの姿がということは…大百足と呼ばれる魔物が近いか、あれは資料で見たときは大きなムカデの下半身に女性の上半身みたいな感じだった


「十中八九、この魔物だろうな…しかし今頃人と関わらない魔物とはなぁ」


大昔は、まだ魔物に差別意識があり人間と魔物とで色々問題はあったが今じゃ全然なくなったはずで…逸れた魔物というのは滅多にいない


とはいえ、虫が苦手な人というのは一定数存在するわけで…今でも虫系の魔物を敬遠する人がいないわけじゃない


しかしこの地方は自然も多いし、虫が苦手な人はあまりいないはず…まぁここら辺の地域じゃ都会ほど魔物がいるわけでもないから、驚かれるとは思うが


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