活気のある朝の青空市場。
卸売り業者の中年同士が競い合うように声を張り上げ、商売魂のありそうなおばさんが手を叩きながら木台に乗った商品を自慢げな口上と共に通りかかる客に勧める。
テーブルにパラソルを突っ立てた小さいスペースで商売をする人もいれば、地べたに絨毯を広げて露店を出している人もおり、かと思えばリュックを背負って商品名と『うちではこれを扱っています!』といった感じに書いたプラカードを持って立っている人だっている。
表に出す形はどうあれ、ここには『売る』と『買う』という需要と供給が栄えていた。
「にぎやかな市場だって聞いていたけど、これは凄いな」
喧騒の合間を歩いていた一人の青年が、キョロキョロとしきりに視点を変えながらつぶやいた。
安そうな服に革の胸当て、気休め程度の細い剣を鞘に収めて腰にかけている。軽い旅の様相なのは容易に想像できる格好だ。
ふと立ち寄っただけだった市場に沸く賑やかさが予想外だったのか、それとも市場というもの自体が初めてなのか。
とにかく青年は、妙に感心しながら歩みを進めていた。
「よっ、兄ちゃん! 今朝方に揚がったばかりの海産物はどうだい? 早く買わないとダメになっちまうよー!」
「すいません、旅の最中なのでナマモノはちょっと」
「そこのぼうや、ちょっと寄っていかないかい。アンタには……この色の石がよく似合うと思うよ!」
「うーん、宝石とか装飾品はあまり興味が無いので」
田舎者の旅人だと服装のせいですぐわかってしまうためか、通りかかる三者三様の露店に声をかけられる。
何か買う目的があって来たわけではないので、声をかけられた端から即断っていった。
通りかかった大きな街で大きな朝市がやっていた、それだけである。
せいぜい薬草程度のものが帰ればいいなくらいにしか考えていなかった。
「おっ、ひらけた場所に着いたな」
断りを入れながら歩いているうちに、いつの間にか少し大きめの、路面が古臭い石畳になっている広場に到着した。
この街のメイン広場である、通称『雌牛の広場』と呼ばれる場所である。
先ほどまでは少し大きな一本筋の通りの両脇に店が並んでいるという感じであったが、こちらは文字通り開けた広場にフリーマーケット形式にいろんな露店が並んでいる。
果物、鋳物、武器、小道具、加工済みの食品……。
店の形式も様々ならば、売り子も若い子から影のありそうな老人まで様々。
まるで、この一帯だけが複数の異国を絡めたエキゾチックな街のように。
「とは言っても、見に来ただけで買い物は無いしなぁ……」
冷やかしは悪いと思いつつも、見たことある物ない物を見物しながらその場を過ぎようとした。
広場の入り口から、反対にあるもう一つの入り口まで。
だいたい距離にして七割程度を突っ切ったあたりで、ななめ後ろの方角から珍妙な音頭が聞こえてきた。
「やあれそうれ! とん、とん、とんがらし!」
青年もそれほど多くの人生経験をしたわけではないが、その短い人生の中でも聞いたことの無い不思議なリズム。謎のメロディ。
どこか心惹かれる部分がある一方、突飛な音にややずっこけそうになった。
あまりにも脳みそに引っかかるフレーズがどうにも気になって、青年はそっと視線を後ろに移した。
「ひりりと辛いは山椒の粉、すいすい辛いは胡椒の粉! とん、とん、とんがらし!」
一人の異形の少女が舞い踊っている。
踊っているというよりは、トントンと小刻みに片足を浮かせてステップを踏んでいるといったほうが正しいだろうか。
両手が翼になっているからハーピーの類に違いない。
背中には身の丈ほどの、何かよくわからない赤くて直角三角形型の大きな張子を背負い込んでおり、踊りと見た目の不釣合い具合がやたら浮き出ている。
彼女の右側に店を構えている陶器の露店主は、自分の売っている皿とどちらが売り物なのかわからなくなるくらい目を丸くしながら眺め、左側の反物を売っている露店主は、となりが目立ちすぎて自分の売り物の影が薄くなると言わんばかりに嫌そうな視線を飛ばしていた。
「なーもう、誰も買いに来ないとは。困った困った」
とかく周りの商人の目もさることながら、そもそも何を売っているのかいまいちよくわからないわけで、賑わう市場の中でも珍しく誰も足を止めようとしない。
たぶんじっくり見ているのはこの青年だと言っても過言ではない。
両手が羽の少女は、その羽を軽く上下に振る。体で今の困窮状況を表しているように。
「しょうがない」
魔物娘はおもむろにしゃがむと、足元に置いてある高さの無い長方形の木箱を引き寄せた。
箱の両端に白いヒモをくくりつけてから、そのヒモを首の後ろにかけて立ち上がる。
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