街を歩いているときに、ふと大通りから外れた小路に目が行ったり気になったりしたことは無いだろうか?
地面の片隅に緑色の苔むした部分のあるじめじめした場所ではなく、人通りはあるけどほとんどまばらで、それこそ一時間に二・三人くらいしか通らないような路を。
気になったことがあるなら、その感覚は非常に正しい。
喧騒に飲まれる大通りとは裏腹に、ひとたび足を踏み入れれば鳥と風の音しか聞こえないような、まるで数メートル手前にあったはずの空間をすっかり隔絶させたような不思議な感覚に襲われるはずである。
なぜそんな感覚に襲われるのか?
ひとえに結論は簡単なこと。心に迷い、悩み、焦りなどがあるからだ。普段と異なる静かで落ち着ける場所で心の整理をしたいと無意識に思ってしまっているのだろう。
迷える者はおのずと導かれる。陽の当たる懐かしい小路に。
とある街の脇道に入ったところに、小さな事務所というか、二階建ての小さな家がある。
まわりを商店や家で囲まれているから、大きさを対比して押し潰れさそうな二階建ての家。
ぱっと見、築三十年くらいは経っていそうな見た目だが、その情緒が逆に懐かしさを誘う。
入り口のドアにはチェーンのついた木板に『ユナ
amp;カメリアお悩み相談所』と女の子っぽい書体の文字が書かれており、ドアに打ち付けられていた。
ドアを超えてすぐの場所は足の短い長方形のテーブルと、二つのシックな黒色をした長椅子がある。長椅子はテーブルを挟んで対の向きになっており、さながら応接間の様相を模していた。
その部屋の最奥には、オーク色の机が一つ。そして、これまた社長等が座っていそうな大きめの皮製のイスが一つ。家の外見に対してかなりモダンで異質。
椅子には一人の少女が座っている。机やドアに背を向けるように、目の前の窓から見ゆる朝日を眺めながら。
「うむ、窓から差し込む光をじっくり眺めるのも面白いものじゃのう」
さも達観したかの如く建物と建物の間を差すそれ見ながら呟く。
少しして少女は右手に持っていたコップを口に運んでゆき、ゆっくりと中身を味わう。この空間から時間が過ぎ去っている瞬間を、身と心で同時に理解する。そんな朝。
すると、同じく少女のいる部屋の左側にある階段からトントンと床を叩く音を響かせて、もう一人の人物が降りてきた。完全に一階の床に足をつけたと思われる段階で、少女はそのまま振り向かずに声をかけた。
「おはようカメリア。今日はじつに良い朝じゃぞ」
カメリアと呼ばれた人物は声に反応して机のほうに顔を向けた。カメリアの着ている服は赤メイン中に所々金色の刺繍の入ったもので、いわゆる“魔女”と呼ばれる種族特有の衣裳であるのは一目でわかる。
ただし、現在当人はもう一つのトレードマークである帽子や杖を持っていないのだが。
「ユナさんおはようございます。昨日はあんなに雨降ったのがウソのように晴れましたね」
応接間側にある窓から差し込む光を眺めて、嬉しそうに言った。
見た目から年齢は十かそこそこにしか見えない少女なのも魔女の特徴であるが、時に他人から見ると愛おしいと感じてしまうのは魔力のせいか、それとも本人の魅力なのか。
とにかく彼女はイスの背中に向かってにっこりと微笑んだ。
「ああ、ジメジメしていると気分最悪じゃからな。ミルクもまずくなるわ」
ふぅ、と短い嘆息をつくと同時にイスを回転させて、ユナなる少女はカメリアのほうに体を向けた。
そこにはカメリアと同年齢くらいの少女が足を組んで偉そうな態度で座っていた。
手首から先は獰猛な野獣を思わせるモサモサの毛が、頭からは後方に向かって悪魔を髣髴とさせる大きな二本のヤギ角生えている。
幼い平坦な体と不釣合いな風貌は魔獣バフォメット族に相違無いものである。
「今日はホットミルクですか?」
カメリアはユナの持つ白いティーカップを目視しつつ問いかけた。
ユナは右手に持つそれに一瞬視線を移した後、再びカメリアの方向を向き直って悠然と答えた。
「違うぞ、これはホット……ミルミルだ」
「ホットミルミル?」
聞きなれない単語に思わずカメリアは首をかしげる。
「飲んでみるか? 甘味が少ないから温めても飲みやすいんじゃぞコレ。まぁホットミルクに比べると若干甘いがな」
そう言ってからユナはカップに口をつける。中身が全体の半分くらいまで減った白い液体を少し口に含み、下の上で転がすように動かしてから喉の奥にゆっくりと流し込む。
一通り飲み込んだところでわずかに息を吐き、ユナはカメリアのほうを向いた。
「ハードボイルドじゃろ?」
「ハードボイルドですねー」
ユナはしたり顔で言い切ると、
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