その日。
アーさまはいつもどおり午前の仕事を終えて、お昼過ぎにギルドにやってきて……本棟の掲示板を見て、一気に難しい顔になりました。
いえ、顔の表情はやっぱり変わらない人です。でも、ずっとそばで見ているうちに雰囲気の微妙な変化が分かるようになってきて。
「……呼び出しを食らっているね。何かやらかした覚えもないのだけれど。」
【呼び出し】
アーシェス・レット副議長はこれを見次第議長のところに来るように!
追伸:ララちゃんは絶対絶対、ぜ〜ったい連れてこないでね!!
レイラ・モノリーヴ
水晶板には確かにそう書いてありました。
「これだけ念を押してるなら間違いなくララ絡みの話なんだろう。行ってくる。
資料室には物語の類も少し置いてあるから、戻るまでそれで時間をつぶすといい。」
「資料室には物語の類も少し置いてあるから、戻るまでそれで時間をつぶすといい。」
そうララに言い置いて階段を上る。議長のオフィスは私のオフィスのひとつ上、6階にある。
「副議長アーシェス・レット、お召しにより参上した。」
「あいてるから入ってー」
いつものやり取りのあと、部屋に入った。
「珍しいね。真面目に仕事してるの。話と言うのはなにかい。」
「たまにはやるわよ。それより……ちょっと頼まれてくれないかしら。」
「何を。」
「ララちゃんの根っこと蜜ね。あれ、ちょっと貰ってきてくれないかしら?」
「無理。」
自分でもびっくりするくらい即答だったね。議長もさすがにびっくりしたみたいだった。
ま、今まで私が即答で拒否したことなんてなかったからしょうがないかもしれない。
「あら……またどうしてそんな。」
「ララを連れて行ったときに話を聞いていないのかい。あの子は以前魔術師に虐待を受けている。
私だって魔術師の端くれだ。あの子が望んだこととはいえ私と一緒にいるだけでも当時の記憶を刺激しかねないのに根を採取だなどと……!」
「嫌われるのが怖い?」
「っ。」
言葉に詰まった。自分でもどちらなのか咄嗟に判断つきかねたから。
「…私の事はどうでもいい。あの子の精神衛生の話をしているから。
とにかく、採取には賛成できない。何か代用は効かないのかい。」
「効かないわ。」
今度は議長が即答する番だった。
見た目と言動は幼いが、こう見えて彼女は魔術薬のエキスパート。傷薬・解毒から石化解除、性別転換まで自由自在だよ。
その彼女がそうまで断言するなら確かに代用は効かないんだろう。それが分かるから余計に悩ましい。
「ま、とにかくよ。無理強いはしないからお願いだけしてみてくれる?
大丈夫よ、あたしの勘では案外上手くいくはずよ? 『案ずるより生むが易し』♪」
議長が座ってる机に手をつく私と、座ったまま私を見上げる議長。
結構な高低差と圧迫感があるはずなのだけれど、まるで意に介せずに彼女は自信たっぷりだ。
「……成果は期待しないでほしい。」
とりあえず、そう言って部屋を辞した。
「あ、待ちなさいアーシェ。せっかくだからこれあげるわ。有効に使いなさい?」
「……さて、どうしたものかな。」
「……さて、どうしたものかな。」
そう言ってアーさまが帰ってきたのは意外と短くて…・・・多分20分くらいしか経ってなかったと思います。
「おかえりなさいっ。……叱られちゃったりとか、しました?」
「いや、それはないから安心していいよ。……始めようか。」
そこから、いつもどおりに仕事が始まって、難しい顔のままのアーさまはいつもより早く仕事を終わらせて……そこから先が変でした。
普段なら家にまっすぐ帰るか、せいぜい商店街で日用品や食料の買出しをするくらいなのに、足は街の繁華街に向かったりして。
「ララ、何か食べたいものはないかい。」
「え? あ、じゃあ……あのライスバーガーって言うの、気になりますっ。」
「ララ、花は好きかな。ちょうどそこに花屋がある。」
「わ、きれー…大事に育ててもらってるんですね♪」
「ララ、何か部屋に不足はないかい。」
「うーん……あ、鉢植えとか欲しいかもです。」
「ララ、何故か議長から劇のチケットをもらった。見てくるかい。」
「……アーさま、今日はなんだか変ですよ?」
アーさまの動きが止まって、十秒くらい止まったままになって、また動き出しました。
「そうかな。そんなことはないと思うけれど。」
「そんなことあります。いつも来ない繁華街に来たかと思えば食べたいものはないか足りないものはないかって。
なんていうか…私を喜ばせようとしてるのが丸分かりです。
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