「やっと見つけた。」
その声に反応して、男たちがいっせいにこちらを振り向いた。
薄汚れた陣笠や鉢金にくたびれた腹当、手には数打ちの量産品と一目に分かる安物の打刀。瞳は例外なく粗野な欲望でギラついている。
どこからどう見ても、完璧に山賊である。
彼らが振り向いたことで人垣が崩れ、彼らが囲んでいた存在が明らかになった。
若く透き通るような白さを持ちながら、熟した果実のような匂いたつ色気を発散する肌。
白い絹糸のように艶やかで、濡れたようにしっとりとした髪。
紅玉をはめ込んだように赤く、底知れない深みをたたえて煌く瞳。
肩や二の腕、臍を露出していながら見る者に高貴な印象を与えずにはおかない白の巫女装束と、それを柔らかく豊かに押し上げる乳房。
そして腰から下の細やかな鱗に覆われた長い長い蛇体。
潤んだような朱の唇も、長く伸びた耳も、ふっくらとした頬も、男として生まれたからには見とれずにはいられない輝きを放っていた。
白蛇、と呼ばれる妖怪に相違ない。
台無しだ、と声の主……武芸者は思った。
髪も肌も装束も土埃で薄汚れてしまっており、表情は恐怖に引きつり、そのせいで瞳も輝きを失ってしまっていたためである。
「あんだァ、兄ちゃん。この辺のモンか?」
邪魔しやがって。
そう思っているのが一目で分かる苛立った声音をあげながら、頭目らしい一人が進み出る。
「いいや。」
対して、武芸者の声音はどこまでも冷静。
ちぐはぐな姿である。
顔の造作も得物の刀も、全てがジパング人の典型的なそれ。しかし、その身を包むのはどう見ても舶来の出で立ち。革製の留め帯に直接刀を差していた。それも3本。
左腰の大小はいいとしても右腰にまで小、つまり脇差を差しているのは何なのか。
しかも何故3本全てが天神差し(刃を下にして差した状態)なのか。
大方どこぞの世間知らずの坊ちゃんが、傾奇者気取りで奇抜な格好で旅をしているのだろう。
部下らしき男たちはそう言って男の風体を嘲った。
「そうかい、じゃあとっとと失せな。こいつァ俺たちの正当な稼ぎなんだよ。」
「知るかそんなもの。それより物部一味の頭目、壱坐ってのはお前で間違いないな?」
「なッ……手前ェ、俺たちを追ってき」
ごぎっ。
頚椎を破壊する嫌な音が響いて、言葉の続きを言えずに頭目は倒れ伏す。
武芸者が抜く手も見せずに振り抜いた一撃の結果である。
出血がないところを見ると峰打ちらしかったが、そもそも打刀というのは重量1.5kgに迫る金属製の棒である。
そんなものを全力で振り抜いた攻撃が首という人体の急所に直撃すれば……刃を返してあろうがなんだろうが人は死ぬ。
事ここに至ってようやくこの青年が強敵であることを理解した部下たちが口々に罵声を吐きながら彼を取り囲もうとする。
が、その動きに統制がまったく取れていなかったので、武芸者は一番先頭の敵から攻撃を加えていった。
「てめええぇっ!!」
めきっ。
口から泡を飛ばして向かって来た男が刀を振り上げる前にこめかみを横殴りに一撃。
「お頭をやりやがったなぁっ!?」
ごちゅっ。
唐竹割りの一撃を半身ずらして避け、股間を下から蹴り上げ、潰す。
「死ねゴラァッ!!」
どごっ。
袈裟斬りの斬りつけを弾き返し、跳ね上げた刀で脳天唐竹割り。
「まだやるごきゃっってんなら容赦はしないが、どうする?」
「ひっ……!」
10秒に満たない時間で仲間3人を再起不能にした武芸者にぴたりと見据えられ、残りの山賊たちは心底震え上がった。
格の違う戦闘の腕前にではない。
金的を潰した男の首に足をかけその首を踏み折りながらの言葉でありながら、彼の口調にも表情にも一切の興奮がなかったからだ。
この男は、卵の殻を割るような平常心で敵を殺す。手向かえば、自分たちもあのように殺される。
そう思うに足る……いや、強制的にそう思わされる、いっそ静謐と言っていい眼差し。
山賊たちは転がるように逃げ去り二度と戻ってこなかった。
「あ、あの……助けていただいてありがとうございました。あなた様がいなかったら、わたくしの命はあの時消えておりました。……あなた様は、命の恩人でございます。」
打刀を鞘に収めて頭目の屍を検分している武芸者に、白蛇が声をかけてきた。振り返ると、深々と頭を下げられる。
声がまだ若干震えているのは、凄惨な戦闘現場を目撃した直後ならば仕方のないところだった。
「助けに来たわけじゃないんだけどな。単にこいつらが賞金首だったから討伐に来ただけで。」
「しかし、助けられたことには変わりがありません。わたくしは春賀(ハルカ)と申します。当地の水源である衣ヶ湖の護り龍、明日葉(アスハ)様の眷属で、ご覧の通り
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