32ページ:エルフ

突然だが、諸君等は自然は好きであるか?
…なるほど、何と言っているのかわからん。
まぁ、好き嫌いは人それぞれであるからな、我輩も好きではないが嫌いでもないであるし。

何で唐突にこんなことを聞いたのか…察しの良い者ならもう既にお気づきであろう…

「……迷った!!」



うむ、始まり方がワンパターン化している気がするが、気にせずに状況を説明するとしよう。

我輩は今、この辺りに在ると言われているエルフの集落を探している。
無論琴音達には止められた、生きて帰って来れるか的な意味でな。
だが、我輩は親切なアルラウネから貰った魔法の地図を持っている、これさえあればそう簡単に迷いはしないだろう。

…しかし、現実とは実に非常なものである。

森に入って数分、今どの辺りにいるかを確認しようとして地図を開いて見ると、我輩の位置を示す印が中央にあるだけで何も描かれていなかった…
どうやら、一部例外を除いて屋外では使用が出来ないようだ…しっかりと確認してから来るべきであったな…
今更嘆いてもどうしようもないであるがな……困った。

「この辺りに詳しい魔物でも出て来ないだろうか…」

誰かが聞いていることを願ってやや大きめに呟く…無論、周りからは何も聞こえてこない。
万が一迷った時のための備えはしてあったので、食料さえ調達出来れば暫くは大丈夫だろう。
だが、道具も無限にあるわけではないであるからな…時間が掛かれば掛かるほどこの先生きのこれなくなってくるだろうな…

とりあえず進むであるかな…歩いているうちに何とかなるだろう。



お世辞にも歩き易いとは言えない森の中をひたすら歩く…
いつも歩いたり走ったりしているから、これくらい何ともないだろうと思っていた我輩が愚かだった…
短時間なら苦にはならないだろう…だが、長時間歩き続けるとなるとそうもいかない。
倒木や岩で凹凸が激しいうえ苔が生えているために、普通なら滑って余計な体力を消耗することになるだろう…
我輩の履物には、強力な滑り止めが付いているからこの程度では何ともないであるが…

え?材料と作り方?企業秘密である。

「む…腹が減ってきたであるな…」

我輩の腹から気の抜ける音が聞こえてくる……
ここらで弁当でも食べるとしよう。
今日の弁当は桜花が作ってくれたであるからな…凄く楽しみである。
その辺にあった比較的汚れてない岩に腰かけ、弁当の包みを解く。

「いただきま………ん?」

木の葉が擦れ合う音に混じって、何者かの呻き声が聞こえてきた…気がした。
誰かがいるなら接触を試みたいが…弁当も食べたいであるし…

「………ぅぅ……」

やはり聞こえてくるであるな…我輩の直感が早めに行かないと不味いと言っている…
まぁ、助けた後でも弁当は食えるからいいであるかな。



声のした方へ向かって歩いていると、生い茂った草の中に隠されるように大きめな落とし穴が出来ていた。
自然に出来たにしては随分と浅いであるが、道具を使わないと脱出が難しそうである…
落ちないように気をつけながら穴の中を覗き込む…すると、穴の底に誰かが倒れているのが見えた。

「大丈夫であるか?」
「っ!?誰だ!?」
「お、落ち着くである…別に我輩は怪しい者ではないである。」
「自分でそう言う人間ほど怪しいものはいない!」

随分と警戒されているであるな…こんな状況じゃ無理もないか…
まぁ、刺激しない程度に彼女を観察してみるか…
緑髪で長い髪…細めで長身…特徴的な尖った耳…さっきからずっと我輩に向けて構えられている弓矢…
我輩の予想が正しければエルフと呼ばれる魔物であるな、噂通り人間に対して友好的ではないようだが…

「何を見てる、撃ち抜くぞ?」
「む…すまん、エルフがこんなに美しいとは思わなかったのでな。」
「っ!…このっ!」

我輩の言葉を聞いて赤面したエルフが矢を放ってくるが、放たれた矢は明後日の方向へと飛んでいってしまった。
次の矢を取ろうと手を動かしているが、酷く動揺しているようで矢筒に触れることさえ出来ていない。

「くっ!矢がない!」
「…我輩のを使うか?」
「えっ?」
「えっ?」
「いや…撃たれると分かっているのに何故?」
「当たる気がないであるからな。」
「……」

そう言った我輩の顔を見て、呆れているかのような表情で溜息を吐くエルフ。
…我輩、何か可笑しな事を言ったであるか?

「それで、ここで何をしているのであるか?」
「…プライドなんて無かったな…見ての通りだ、誰でも分かるような落とし穴に落ちたうえ、足首を挫いてしまったんだ。」
「それで出られないのか…少し待つである。」

こんな事もあろうかと長めのロープを…うむ、ちゃんと持ってきてるであるな。
後は頑丈そうな枝に掛けて…コレデヨイ。

「これにつかまる
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