「…来てしまいましたか…お姉様から忠告はされたはずですよ?」
「む?お姉様?」
「あぁ…黒い扉を選んだのですね…勇敢だと言うべきか無謀と言うべきか…」
道なりに進み続け、長い螺旋階段を上って出た先は、周りの景色が良く見える塔の上だった。
足場の広さはそれなりにあり、障害になりそうな物も見当たらない。
こんな何もない所で何をやっていたのだろうか?景色でも楽しんでいたのだろうか。
「美しいでしょう?私は、ここから海を眺めるのが大好きなのですよ。」
彼女の言うとおり、見る方向を変えるだけで様々な景色が見える。
特に、月夜に輝く海は美しいとしか表現の仕様がない。
「……ここに来たからには、ただで返すわけには行きません…涙と鼻水の準備はよろしいですか?」
「残念な事に在庫切れでな、代わりに我輩の発明品と営業スマイルで勘弁してもらえないであるか?」
「面白いことを仰るのですね…気に入りましたわ。」
「気に入ってもらえてよかったで…」
「吸血は最後にしてさし上げます。」
「…眷属化は勘弁である…」
瞬間、彼女の雰囲気が変わる。
穏やかな表情はそのままだが、我輩ですら命の危険を感じるほどの禍々しい力を感じる。
これが…これが本気を出したヴァンパイアの力なのか…?
「いきますよ!」
彼女が何かを呟くと、彼女の手に光が集まり、弓と矢へと姿を変えた。
現れた弓矢をしっかりともち、限界まで引き絞って我輩ではなく真上へと射る。
放たれた矢は吸い込まれるように空へと消え、それと同時に弓の方も消えてなくなってしまった。
「何をしたのであるか?」
「もう少ししたら分かりますよ。」
そう言ってまた何かを呟く。
すると、目が眩むほどの強い光が放たれ、収まった後には一本の剣の様な物が残されていた。
彼女はその剣を手に取ると、使い心地を確かめるかのように軽く振った。
「時間はたっぷりあります…心行くまで楽しみましょう。」
「剣であるか…それならば、我輩もこれを使うとするか。」
手に持っていた鞭をしまい、腰に差した刀を鞘から抜き放つ。
「それは…ジパングで使われている武器…」
「刀を見たことがないのであるか?我輩の作った模造品でよかったら後で譲るであるが。」
「いいのですか?でも、手加減はしませんよ?」
「勝ち負け関係無しに一本プレゼントするであるから安心するである。」
そう言いつつ、徐々に間合いを詰めていく。
相手の方も剣を構え、我輩ので方を伺っているようだ。
…一言で言うと、隙がない。
下手に近づくと危険であるし、時間をかけるのもいろいろと不味い。
何か道具を使って様子を見るか…何がいいだろうか?
………これを使ってみるか。
「これでも喰らうである!」
導火線に火を点け、ヴァンパイアに向かって投げつけて手で目を覆う。
少ししてからヴァンパイアの悲鳴が聞こえたのを合図に、手をどける…
その瞬間、目を突き刺すような閃光が視界いっぱいに広がった。
「ぎゃあぁぁぁ!!目がぁぁぁ!目がぁぁぁ!!」
我輩特製の閃光玉をもろに喰らい、目を強く押さえて転げ回る。
さ…さっきの悲鳴は演技だったのか…
「なるほど…面白い道具ですね。」
「ぐおぉぉぉ…頭痛がする…吐き気もだ……この我輩が…体調が悪いだと…」
「これでは続きが出来ませんね…」
「これ位の事で…諦めるわけにはいかんである…」
「無理はしない方がいいと思いますよ?人間は私達と比べてとても弱い存在ですから。」
「仲間を助けるためにも…我輩は負けられんである!」
刀を握り締め、自分の周囲を払いながら立ち上がる。
視力は回復しておらず、頭痛のせいで集中も出来ない…
だが、まだ諦めるには早い…何か手があるはずだ…
「相手の位置も分からないのに、どうやって戦うつもりですか?」
「うひゃあ!?」
突然背後から声が聞こえ、耳に息を吹きかけられた。
我輩としたことが、普段出さないような変な声を出してしまったである…
「ぐぅ…自分の発明品で動きを封じられた上にこんな…」
「貴方のような幼い人間が、魔物であり貴族である私に勝つことはありえないのですよ。」
「その考えを覆してみせる!」
刀を一層強く握り締め、さっきまで声のした方に向けて振るう。
剣で防がれたのか、高い金属音と強めの反動が返ってくる。
「そこか!」
「くっ…さっきよりも動きが速い…」
ヴァンパイアがいると思われる場所に、深く踏み込みながら切り払う。
再び剣で防がれたようだが、初めの音と反動の後にさらに複数回の金属音が聞こえてくる。
それと同時に目が見え始め、ヴァンパイアの驚いた表情が少しずつ見えてきた。
「まさか…こんな事が…」
「やっと見えるようになってきたである…我ながら恐ろしい物を作ってしまったであるな…」
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