19ページ:シー・ビショップ・スキュラ・ドラゴン

諸君等は、修羅場というものを体験した事はあるだろうか?
四方を魔物(一部人間)で囲まれ、逃げも隠れも出来ない状況…

今まさに、我輩は引く事の出来ない地獄へと足を踏み入れてしまったところだ。



〜数分前〜



「輝様…読書をしながら歩くのは危険ですよ。」
「問題ないである。」

既に何度か聞いた言葉を聞き流しながら歩き続ける。

「輝ちゃん、学ぶ事も大切だけど詰め込みすぎは良くないわよ?」
「…思ったのじゃが、そんな事をしているから道に迷うのではないか?」
「むぅ…あと少しだけ…」
「輝様!」
「ぬぉっ!?わ、分かったである…」

突然、我輩の読んでいた本を取り上げて怒り始める琴音
琴音の怒った顔…久々に見たである…

「まったく…輝様はもう少し人の話を素直に聞くようにした方がいいですよ?こうやって注意をしたりお説教をするのも輝様の為を思ってやってる事で…」
「今度から気をつけるであるから…」
「だめです!輝様はいつもそう言いますが、ちゃんと正した事がありますか?」
「無いであるな!」
「自信満々に言わないで下さい!一昨日だって私のお菓子をつまみ食いして、もうやらないって言ったはずなのに昨日もつまみ食いをしたじゃないですか!」
「甘いな琴音、今日もこっそり食べ………しまったっ…」
「ま、まさか…あぁっ!私のお菓子が……あ〜き〜ら〜さ〜ま〜!?」

おぉう…琴音の怒りが大変な事に…
例えるなら、殺意の波動に目覚めて瞬極殺を乱発し始めるくらいに大変である…

「今日と言う今日は許しませんよ!そこに正座をしてください!」

もうだめか…何時間説教されるのであろうか…

…などと思っていたその直後。

「見つけたぞ貴様あああぁぁぁぁぁ!!」

突然、空気が震えるほどの怒号と共に、我輩に向かって何かが突っ込んできた。
避ける間も無く突き飛ばされ、ベアハッグをかけられる。

「中々情熱的な抱擁ね…あっ、技って言った方がいいかしら?」
「あ、アレクシア様!?こんな所でお会いするとは…」
「休暇は楽しめているかしら?」
「えぇ、こいつを探すために世界中を飛び回っていましたよ。」

こんな会話が行われている間にも、我輩の骨が悲鳴をあげるほどに強く締め上げられている。
胸の感触が…いや…そんな事を言ってる場合じゃないであるな…
と言うか…息が苦しいである…

「輝が何かしたのか?」
「あぁ、私の大事な大事な宝を盗んだ挙句、私の胸を好き勝手に弄り回して逃げたんだ!」

そう言えばそんな事もあったであるな…逃げた後に罪悪感をちょっと感じて、売らずに持ってしていたがな。
あぁ…琴音から黒い物が…

…ん?海の方からどこかで見たような奴が…

「あっ!お前は…!」
「あの時の子じゃない、元気にしてた?」
「今は元気であるが、もう少ししたら満身創痍になる予定である。」
「いい気味だ!人を勝手に魔物に差し出した罰が当たったんだよ!」
「まぁまぁ、幸せだからいいじゃないのさ。」
「それは…そうだけどよ…」

…何をしに来たのだこの二人は…と言うより、何故大陸にいるのであるか…
…半殺しで済むだろうか…

「あっ!輝さ〜ん!一緒に愛について語り合いませんか〜?」

また海の方から何かが…あぁ、あの時のシー・ビショップであるか…

残念、我輩の旅はここで終わってしまうようだ。



「なるほど…災難でしたね…」
「あぁ…でも…す、少しだけ気持ちよかったと言うか…な、なんでもない…」

あれから、琴音は偶然集まった者達一人一人に話を聞いていき、時には共感し、時には慰めたりしていた。
もちろん、我輩は逃げられないように桜花に巻きつかれ、身動き一つ出来ない状態にさせられている。

「輝ちゃん…今まで随分と面白い旅をしていたのね…」
「胸を見るとつい手が出てしまうのである…おっと、人妻だとか彼氏持ちには手は出してないであるぞ?」
「それは当たり前でしょう……ハーレムでも作る気なのかしら…」
「ん?何か言ったであるか?」
「…何でもないわ。」

しばらく話していると、琴音がこちらへ戻ってきた。
…いよいよ我輩の処刑方法が明らかになるのか…

「輝様…貴方の悪行は全て聞きました。」
「ほんの一部であるがな…」
「なんですって!?」
「いや、何でもないである。」
「…まあいいです…とりあえずは皆さんにしっかりと謝ってください。」

桜花が拘束を解き、自由に動けるようになった。
逃げる事は…出来そうにないであるなぁ…

「…スキュラ殿とその夫殿、すまなかったである…」
「…まぁ、悪い事ばかりじゃなかったからな…」
「私は別にいいけどね、優しくて素敵な人と結ばれたんだからね。」
「気は強いけど、甘えん坊で可愛い嫁が来てくれたしな…今回は大目に見るぞ…今回だけだからな!」


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