皆さん、こんな始まり方で申し訳ないが…
「ちくしょう!どこまで逃げればいいんだ!」
「悪態つく暇あったら走れ!」
「そんな事言っても…足が疲れて…」
俺達は今、凄くピンチです。
「入った直後にあんなもの仕掛けるか普通!?」
「魔物の考える事だから私たちの常識なんて通じる訳が無いだろう!」
「もうやだ!今すぐ帰りたい!」
俺達が逃げている理由…それは、入ってすぐの所に設置されていた罠のせいだ。
床に設置されていたスイッチを踏んでしまったらしく、入り口付近の天井から巨大な石像が降って来て俺達を追い回し始めたのだ。
この石像がなかなか速く、全力で走ってもなかなか振り切ることが出来ない。
このままではどうすることも出来ない…何か方法は無いか…
「っ!分かれ道だ!」
サラの声に気づく頃には目の前まで迫っており、俺は咄嗟に右の方へと飛び込んだ。
そのすぐ後に、轟音と共に石像が分岐点にぶつかって動かなくなった。
助かったが…後戻りできそうに無いな…
「痛い…お尻ぶつけちゃった…」
「間一髪だったな……で、サラは?」
一時の沈黙が訪れる…
「サラ!そっちにいるのか!?」
…返事が無い…
………まさか!?
「だ…大丈夫だ…」
「サラ!?本当に大丈夫か!?」
「あぁ…ただのかすり傷だ。」
サラの無事を確認し、ほっと胸を撫で下ろす。
しかし…これからどうしようか…
「私はこっちから進む、二人もそのまま進んでくれ。」
「サラ一人で大丈夫なの?」
「大丈夫だ、何とかなるさ。」
そう聞こえた後、向こう側からは遠ざかっていく足音だけが聞こえてきた。
「俺達も行こう、どこかで合流できるはずだ。」
「そうだね…うん!行こう!」
サラならきっと大丈夫だ…今は信じることしか出来ない。
絶対に…全員揃ってここを出るぞ…!
「…強がっては見たものの…この状況じゃなぁ…」
先程の衝撃で、剣と盾…鎧までもが使い物にならなくなってしまった…
生きていただけありがたい事なんだが…今襲われたら対抗出来んぞ…
「せめて、剣だけでも残っていれば…」
騎士の命とも言える剣を壊してしまったなんて事が知られたら、恥ずかしくて町を歩けなくなってしまいそうだ…
どこかの宝箱に剣の一本くらい入ってないだろうか…
あ、宝箱だ。
「…ちょっと都合が良すぎる気もするが…この際気にしていられないな。」
私の目の前には、豪華な装飾のされた大きな宝箱と、薄汚れた小さな箱がある…
…これ…どう見ても大きい方が罠だよな…?
そう思って小さな箱の方を開けようとした時、ふとある事を考える。
実は大きい方を罠と見せかけて、小さい方に罠が仕掛けられているかもしれない…
小さいと言っても、比較対象が私の背丈くらいある大きな物だと言うだけで、普通の宝箱と大差ないくらいの大きさだ。
よし…ちょっと試すか…
「入ってますかー?」
「あ、入ってまーす……あっ…」
やはり小さい方が罠だったか、こっちの方を開けるとしよう。
ちょっと背伸びをしながらあけると、中には私が欲しいと思っていた物…鎧と剣が入っていた。
色が黒っぽいのは気になるが、中々良さそうな鎧と剣だ…気に入った。
早速ここで装備していこうかな。
………うん、サイズもちょうど良いし、凄く動きやすい。
それに、今ならどんな魔物が現れても負けない…そんな気がする。
「ありがとう、君のおかげでいい物が手に入ったよ。」
おそらくミミックであると思われる宝箱に礼を言い、さらに奥へと進んでいく。
…まさかあんな事になるとは知らずに…
「…成功です、予定通り罠の方を取りました。」
「よくやったわ、貴方の働きにあのお方もお喜びになることでしょうね。」
「ありがとうございます…一つよろしいでしょうか?」
「なに?言ってみなさい。」
「私がハズレって、扱いが酷くないですか?」
「……気にしてはだめよ。」
「………泣いても…いいですか?」
「かまわないけど、通信を終了した後で泣いてね?」
「貰ったっ!」
私の一振りがいい所に中り、目の前の魔物の鎧を切り裂いた。
その衝撃で魔物は剣を落とし、その場に尻餅をつく。
「くっ…私の負けだ……好きにするがいい…」
魔物の喉元に剣を向けたあたりである疑問が脳裏に浮かんだ。
この魔物に止めを刺す必要はあるのか?
いやいや…魔物は人間に害を成す存在だ…魔物を滅ぼし、平和をもたらすのが勇者とその仲間の使命だ。
なのに…何故だ……何故私はこの魔物に止めを刺す事が出来ないんだ…?
まるで、家族に剣を向けている様な…それに近い嫌悪感がこみ上げてくる…
「…どうした?止めを刺さないのか?」
そうだ…止めを刺せ…剣を一振りするだけでいいんだ…たったそれだけだ…
なのに、何故腕が動かない
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