「世話になったであるな。」
「こちらも楽しませてもらった、礼を言うぞ。」
「それじゃあ行きましょうか。」
騒ぎの翌日、我輩と稲荷殿は雪姉殿に見送られ、目的地へと出発した
道中は稲荷殿に案内をしてもらうことになり、これで迷う心配はなくなった。
「今度来た時は…フフフ…」
うむ、今度来た時に熱湯に沈めてやるか。
そろそろ行くか…このままここにいると気力がどんどん抜けていくである…
「では…去らばである。」
「道中気をつけてな。」
行ってしまったか…
襲い損ねたのは無念でならないが…楽しかったから良しとしよう。
「ふぁぁ…あれ?輝さんと彼女はどちらに?」
「今さっき帰ったよ、輝も用事があったみたいでな。」
「そうですか…昨日のお詫びに、服を作って差し上げようかと思ったのですが…残念です…」
本当によくもてるようだな輝は。
何時か身を滅ぼす様な事にならなければいいが…
「あ、一緒に買い物にでも行きませんか?」
「ふむ、行こうか。」
私達も家を出て、山を下り始める。
次は何時来るのだろうか…ふふっ、楽しみが一つ増えたな。
「そういえば、昨日の鍋はどうだった?」
「えっ!?あの…その……お、美味しかったですよ?もう少し味を濃くしてもいいと思いましたけど…はい…」
「稲荷殿はこの辺りに住んでいるのであるか?」
「えぇそうよ。」
「いろいろと大変ではないか?特に今日の様に雪の積もった日等は。」
「確かに大変ね…でも、その分体を動かすからとても健康的な生活が出来るわよ?」
「ふむ、そういう見方も出来るか…なるほど。」
目的地までの道中、やはり雪が多いが苦にはならんである。
話し相手がいると言うだけでここまで変わるものなのか…
新しい発見であるな、今度から話し相手が確保出来たら積極的に会話をしてみるであるかな。
「…ところで一ついいであるか?」
「どうしたの?」
「…誰かに見られている気がするのであるが…気のせいだろうか?」
「あら、彼女に気づくなんて珍しい…流石に場所までは分からないでしょうけど。」
弓を取り、矢を番えて意識を集中させる…
気配はしても姿が見えない…音も少し聞き辛いであるな…
……むっ!閃いたである。
「稲荷殿、少しの間息を止めてもらえないであるか?」
「え?分かったわ、でも少しだけよ?」
稲荷殿が息を止めたのと同時に、我輩も息を止めて再度集中する。
先程よりも少し静かになって、より周りの音が聞こえるようになった…
その中に僅かに混じる呼吸音…安直な考えだったがこうも上手くいくとは…
「そこだっ!」
音のした方へ向けて矢を射る。
放たれた矢は、風邪を切り裂きながら音のした所…正確には、そのすぐ近くの木に深々と突き刺さった。
その瞬間短い悲鳴のような声が聞こえたかと思うと、周辺の空間が揺らぎ、何もなかった木の枝の上に少女が現れた。
はじめて見る妖怪であるな…見たところ、ハーピー属によく似ているように見えるが…
「いきなり何をするんですか!刺さったら死んじゃいますよ!?」
「直接中てないように逸らしたから問題ないである。」
枝の上の少女は非常に機嫌が悪いようだ…何故であろうか?
まぁ、そんな事はどうでも良いとして…
「何故我輩達を見ていたのであるか?」
「彼女はカラステングだから、縄張りに入ろうとしていた私達を警戒していただけだと思うわ。」
「そうなのか?」
「彼女の方はよくお話したりするけど、貴方はこの辺りの村や町では見かけたことがなかったから。」
こっちに帰って来てからそんなに日も経ってないであるからな…
「彼はこの先に用事があるらしいから通してもらってもいいかしら?」
「見知らぬ人を簡単に通すわけには行きません、残念ですがお引き取りください。」
むぅ…困ったであるな…
出来れば手荒な真似はしたくなかったであるが…仕方ない。
「どうしてもダメであるか?」
「はい、どうしてもダメです。」
「仕方ない、貴殿を打ち負かして通るしかなさそうであるな。」
新たな矢を番え、交戦の意思を表す。
「私と戦う気なんですか?後悔しても知りませんよ?」
「貴殿は後でこう言うであろう…こんな子供に負けるなんて…とな。」
「あまり苛めないであげてね?その子、結構繊細だから。」
「大丈夫です、嘆く暇すら与えないほど一瞬で終わらせてあげますから!」
その瞬間、目にも留まらぬ速度で木々の間を縫うように飛び始める。
だが、イケメンな我輩はこれ位では動じない。
先ずは、弓を取りやすいように雪の上に刺す。
次に、懐から長い導火線の付いた玉と、細い棒手裏剣を数本取り出し、導火線の方に火を点けた。
そして、真上に向かって思いっきり玉を投げると、即座に棒手裏剣を構えて相手の行く先を予測して次々と投げて
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