6羽:ドM疑惑?そんなもの多分ありません

「あの人ってもしかして…アクアリウムを襲った強盗団を笑顔で斬りきざんだって人…?」
「おーこわっ…あんな奴がこの町に住んでるのかよ…これじゃあ、安心して眠れねぇな…」

周囲の視線が痛い…噂の内容も間違って伝わってるし…

「ママー、あの人なんで悲しそうな顔してるの?」
「こ、こら!指差しちゃいけません!殺されてしまうわ!」

聞こえてくる言葉の一つ一つが、僕の胸に深く突き刺さる…
確かに僕は人を殺めてしまった…それには変わりはない。
だけど、無差別にやったわけじゃない…僕が言っても信じてもらえないだろうけど…

早く帰ろう…ここは居心地が悪い…





「アルトさんの評判…凄い事になってますよ…」
「そうじゃろうな…あんな事があったばかりじゃしの…」

先日の一件以来、町でのアルトの評判は最悪の一言に尽きた。
何とか追い出されずにいられるのは、オリファー辺りが何とかしてくれているからであろうか…?

「…お兄様…大丈夫かな…」
「クリス…心配せんでも大丈夫じゃよ、アルトは強いから…」

心配そうな表情のクリスの頭を撫でてやると、少しは落ち着いたのか、ワシに強く抱きついてきた。
実際には、アルトにはまだまだ未熟な部分が多い。
じゃが…ワシ等がピンチの時には、どんなに大きな相手だろうと、どんなに強い相手だろうと、臆する事無く立ち向かっていく。
先日の事も、ワシ等を守ろうとしてやったこと…正直に言えば、とても嬉しかった。
だからと言って、アルトがやった事が帳消しになる事など無い…そればかりはワシ等でもどうする事も出来ん…

「ただいま…」

噂をすれば…か…
大きな荷物を背負い、疲労だけとは思えない疲れきった表情をしている…

「おかえりなのじゃ、随分と重そうな物を持っておるの。」
「ん?これの事?確かに重いね。」

大きな袋をポンポンと叩くアルト。
叩かれた袋からは、金属がぶつかり合ってるような音が聞こえてくる。

「…中身は…?」
「壊れた鎧とか武器の金属部分、隊長に許可を貰って持ってきたの。」
「そんな物、何に使うつもりかの?」
「んっ…今は秘密。」

そう言うと、袋を担いでリビングを去って行った。
…凄く怪しいの…気になってしょうがないのじゃ…

「アイリスさん…ニヤニヤしてるその表情怖いですよ?」
「んなっ!?このワシに怖いとは失礼な!ワシのガラスのハートにひびが入ったぞ!」
「…アイリスのは…鉄だと思う…」
「クリスまで!?うわぁぁぁん!リーラ!ミーヤ!クリスと琥珀がいじめるのじゃぁぁぁ!」





アルトの家に招かれ、凄く楽しみにして来てみたが…

「…?どうしたの?」
「…いや…想像してたのと違っただけだ。」

着いて最初に言われた言葉は、「僕に剣の使い方を教えて欲しい!」だった。
俺と同じ種類の武器を使ってくれるのは嬉しいけど…俺はアルトの股間の剣を…

まあ、頼まれたからにはしっかりやるけどな。

「先ずは準備運動をしようか、いきなり剣を振っても体に負担がかかるだけだからな。」
「わかった。」

黙々と、体を解していく俺達。
服で見た目より大きく見えているが、実際は年相応に細い様だ…
あの小さな体のどこにあんな力が秘められているのだろうか…時間をかけてじっくりと調べないとな…

「終わったぁ…これだけでも汗だくになりそうだよ…」
「おいおい…いくらなんでも体力なさすぎだろう…」
「ちょっと理由があってね…」
「まあいい、先ずは素振りからやるか。」

練習用の刃を潰した剣をアルトに渡す。
剣を抜いて構えるその姿は意外にも様になっており、見た目だけならそれなりに強そうに見える。

大事なのは中身だがな…とりあえず軽く振ってもらってから欠点を探して直して行こう。

「アルトの思う様に振って見てくれ。」
「うん……やぁっ!」

掛け声と共に剣を振るアルト。
うーん…特に直す必要のある所は見当たらないな…
剣を振ったことが無いと言う割には、剣を振った時に重心がぶれてないし、振りにキレがある。
これ…わざわざ俺が教える必要無いと思うな…

「基礎は問題無さそうだから…実戦あるのみだな。」
「えっ?技とかそう言うのは?」
「使い方の分からない技を誰かに教えられるよりも、一から自分で編み出した方がいい場合もあるからな。」
「そうなんだ…」
「力になれなくてすまない…」
「そうでもないよ?それに、まだ何もやっていないのに力になれなかったなんて言っても仕方が無いよ。」

そう言って俺に微笑みかけてくれるアルト…

…教えられてたのは俺の方だったようだ…
やはり、俺の目に狂いは無かった…アルトと出会えて本当によかった。

「…ありがとう。」
「ん?何か言った?」
「何でもない、とりあえず一戦してみるか…ついでにあんな事やこんな事
[3]次へ
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33