1羽前編:最終鬼畜の目覚め

薄暗い部屋に、複数の人影がいる…

「状況はどうなっている?」
「今の所、我等が優勢のようです。」
「でもぉ、まだ安心は出来ないよぉ?」
「勝ちに向かっている時こそ、慎重に行動するべきですね。」
「我等が負けることはない…が、奴等も少しずつではあるが強くなっていっているからな…油断は出来ん。」
「その事で一つ気にかかる事が…」

そういうと、一人が水晶玉を取り出した。
その水晶玉には、眠っている一人の少年が映し出されている。

「あれぇ?この人は指名手配されてる人だよねぇ…この人がどうかしたのぉ?」
「この少年…幾度となく彼等と接触し、交戦している様なのですが…」
「それがどうかしたのですか?」
「この者…奴等の軍勢に加わったようなのです。」
「ふむ…やはりな。」
「この人知ってるのぉ?」
「一度だけ、この目で見た事があるが…そうか…ふふふ。」

一人が静かに笑う。
まるで、この先に起こる事を想像し、楽しんでいるかのように…















……真っ暗だ……
体が浮いているかのような不思議な感じがする……
…誰かの声が聞こえてくる…誰の声だろうか……

「…ぃ……おい新人!仕事中に寝てるんじゃねぇ!」

微かに聞こえていた声が、しだいにはっきりとしたものになり、意識が呼び戻される。
ここは……休憩室だったっけ…?

「やっと起きたか、来て早々居眠りとはいい根性してるじゃねぇか。」

声のした方を見ると、とても体格のいい女性が立っていた。
彼女は、僕がお世話になる部隊の隊長で、たしかミノタウロスという種族だったと思う。
あれ?ミノタウロスって面倒くさがりな人が多いって聞いたんだけど…うーん…?
…細かい事はいいか。

「……ふあぁ…お昼まだですか?」
「まだはえぇよ!というかお前なんだ?昼まで寝るつもりだったのか?」
「はい。」
「即答してんじゃねぇよ!勤務評価下げるぞこの野郎!」
「騒がしいですね…どうしたんですか?」

休憩室のドアが開き、一人の男性が入ってくる。
確かこの人は、この部隊の副隊長をしている人だったかな。

「副隊長〜隊長が苛めて来ます〜」

わざとらしく泣き真似をし、副隊長の胸に飛び込む。
副隊長は、少し驚いた様子だったけど、暖かい笑みを僕に向けて優しく頭を撫でてくれた。

「よしよし…隊長…もう少し優しい言い方は出来ないんですか?」
「仕事中に寝る奴が悪い。」
「この子だって、望んで危険な職についた訳ではないでしょうに…」
「あ、望んでここに来ました。」
「…仕事中の居眠りは控えめにね?」
「わかりました。」
「………お前等、私になんか恨みでもあんのか?」
「「ないですよ?」」
「…とにかく!初出勤なんだからもう少しシャキッとしろ!」

初日からいきなり怒られてしまった…
特に注意する事はないってアイリス達は言っていたのだが…やっちゃったなぁ…

「まぁ、やる事と言っても訓練と街の見回りくらいなんだがな。」
「非常事態でも起きない限り出動する事はないから、気楽にやってもらって構わないよ。」
「何を言ってる!勤務中は常に緊張感をもってだな…」
「はいはい分かりましたから、飴でも舐めて落ち着いてください。」
「わーい!…………………って、物で釣るな!」

小さな飴玉を口に含み、幸せそうな表情を浮かべる隊長。
しばらく舐めていたけど、途中で我に返り、また険しい表情に戻ってしまった。

「その割には美味しそうに舐めてましたよね?とっても可愛かったですよ?」
「んな!?かかかか可愛いだと!?この私がか!?」
「はい、とっても可愛いです。」

可愛いと言われて、隊長の顔が真っ赤になっている。
…うん、さっきの幸せそうな顔はとても可愛かったと思う。

「お…お前後で覚えてろよ………ワタシガカワイイトカ…ハ、ハズカシイ…」
「ん?どうかしましたか?」
「な、なんでもない!そんな事より訓練場に行くぞ!」

そう言うと、隊長が足早に部屋から出て行く。
僕と副隊長も、その後に続いて部屋を出た。



僕が行商人をやめてから半年の月日が経った。
己の弱点を克服するべく、昨日までずっと修行ばかりの毎日を過ごしていた。
弱点は克服出来なかったけど、魔法を封じる術を手に入れることが出来、随分と戦いやすくなった気がする。
…その過程でいくつかの魔法を忘れちゃったけど……
それ以外は特に進歩はなかった…あれだけ頑張ったのに…

何はともあれ、ある程度の自信をつけ、兵士への道を歩みだす事ができた。
皆が支えてくれたから、今の僕がここにいる。
こんな情けない僕を見捨てないで助けてくれる彼女達には、いくら感謝しても足りないくらいだ。

…その代償として、毎晩毎晩玩具にされたけどね…

あ、訓練場に着いたみたいだ。



「おーし
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