薄暗い部屋に、複数の人影がいる…
「状況はどうなっている?」
「今の所、我等が優勢のようです。」
「でもぉ、まだ安心は出来ないよぉ?」
「勝ちに向かっている時こそ、慎重に行動するべきですね。」
「我等が負けることはない…が、奴等も少しずつではあるが強くなっていっているからな…油断は出来ん。」
「その事で一つ気にかかる事が…」
そういうと、一人が水晶玉を取り出した。
その水晶玉には、眠っている一人の少年が映し出されている。
「あれぇ?この人は指名手配されてる人だよねぇ…この人がどうかしたのぉ?」
「この少年…幾度となく彼等と接触し、交戦している様なのですが…」
「それがどうかしたのですか?」
「この者…奴等の軍勢に加わったようなのです。」
「ふむ…やはりな。」
「この人知ってるのぉ?」
「一度だけ、この目で見た事があるが…そうか…ふふふ。」
一人が静かに笑う。
まるで、この先に起こる事を想像し、楽しんでいるかのように…
……真っ暗だ……
体が浮いているかのような不思議な感じがする……
…誰かの声が聞こえてくる…誰の声だろうか……
「…ぃ……おい新人!仕事中に寝てるんじゃねぇ!」
微かに聞こえていた声が、しだいにはっきりとしたものになり、意識が呼び戻される。
ここは……休憩室だったっけ…?
「やっと起きたか、来て早々居眠りとはいい根性してるじゃねぇか。」
声のした方を見ると、とても体格のいい女性が立っていた。
彼女は、僕がお世話になる部隊の隊長で、たしかミノタウロスという種族だったと思う。
あれ?ミノタウロスって面倒くさがりな人が多いって聞いたんだけど…うーん…?
…細かい事はいいか。
「……ふあぁ…お昼まだですか?」
「まだはえぇよ!というかお前なんだ?昼まで寝るつもりだったのか?」
「はい。」
「即答してんじゃねぇよ!勤務評価下げるぞこの野郎!」
「騒がしいですね…どうしたんですか?」
休憩室のドアが開き、一人の男性が入ってくる。
確かこの人は、この部隊の副隊長をしている人だったかな。
「副隊長〜隊長が苛めて来ます〜」
わざとらしく泣き真似をし、副隊長の胸に飛び込む。
副隊長は、少し驚いた様子だったけど、暖かい笑みを僕に向けて優しく頭を撫でてくれた。
「よしよし…隊長…もう少し優しい言い方は出来ないんですか?」
「仕事中に寝る奴が悪い。」
「この子だって、望んで危険な職についた訳ではないでしょうに…」
「あ、望んでここに来ました。」
「…仕事中の居眠りは控えめにね?」
「わかりました。」
「………お前等、私になんか恨みでもあんのか?」
「「ないですよ?」」
「…とにかく!初出勤なんだからもう少しシャキッとしろ!」
初日からいきなり怒られてしまった…
特に注意する事はないってアイリス達は言っていたのだが…やっちゃったなぁ…
「まぁ、やる事と言っても訓練と街の見回りくらいなんだがな。」
「非常事態でも起きない限り出動する事はないから、気楽にやってもらって構わないよ。」
「何を言ってる!勤務中は常に緊張感をもってだな…」
「はいはい分かりましたから、飴でも舐めて落ち着いてください。」
「わーい!…………………って、物で釣るな!」
小さな飴玉を口に含み、幸せそうな表情を浮かべる隊長。
しばらく舐めていたけど、途中で我に返り、また険しい表情に戻ってしまった。
「その割には美味しそうに舐めてましたよね?とっても可愛かったですよ?」
「んな!?かかかか可愛いだと!?この私がか!?」
「はい、とっても可愛いです。」
可愛いと言われて、隊長の顔が真っ赤になっている。
…うん、さっきの幸せそうな顔はとても可愛かったと思う。
「お…お前後で覚えてろよ………ワタシガカワイイトカ…ハ、ハズカシイ…」
「ん?どうかしましたか?」
「な、なんでもない!そんな事より訓練場に行くぞ!」
そう言うと、隊長が足早に部屋から出て行く。
僕と副隊長も、その後に続いて部屋を出た。
僕が行商人をやめてから半年の月日が経った。
己の弱点を克服するべく、昨日までずっと修行ばかりの毎日を過ごしていた。
弱点は克服出来なかったけど、魔法を封じる術を手に入れることが出来、随分と戦いやすくなった気がする。
…その過程でいくつかの魔法を忘れちゃったけど……
それ以外は特に進歩はなかった…あれだけ頑張ったのに…
何はともあれ、ある程度の自信をつけ、兵士への道を歩みだす事ができた。
皆が支えてくれたから、今の僕がここにいる。
こんな情けない僕を見捨てないで助けてくれる彼女達には、いくら感謝しても足りないくらいだ。
…その代償として、毎晩毎晩玩具にされたけどね…
あ、訓練場に着いたみたいだ。
「おーし
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