14話:少年と魔物記者の休日

「…暇だなぁ…」

先日の一件以来、特に何かあるわけでもなくのんびりとした毎日が続いている。
平和なのは喜ぶべきことなのだろうけど…暇で暇で仕方がない。
先日、アイリスが見つけてきた物の中にあった古い書物は、時折時を止めつつ2日で読み切ってしまった。
同様に、洗濯や掃除も時を止めながらやったおかげで1時間ほどで片付いた。
今から露天を開きに行こうかとも考えたが、距離と時間の関係で諦めた。
魔女三姉妹は仕事に行ってるし、父さん達は部屋に篭って何かをしている、兄さん達も部屋に篭ってナニかをしている。
アイリスはクリスと一緒に『日帰りデザート食べ歩きツアー』に行っちゃったし、竜姉妹は宝を持って来るって言って飛んでいった。

詰まる所、僕だけやることがない。

こんなに暇を持て余したのは何十年ぶりだろうか…
行商人として各地を歩き回っていた頃が懐かしくさえ思う。
あの頃はあの頃でよかったなぁ…他人に気を使うことをしなくて良い気ままな生活が出来てたからね。
もちろん、今の生活にも満足している。
個性豊か…と言うには個性的過ぎる人達に囲まれて飽きることがない。
ただ、刺激が強すぎて今日のような普通の日は何か物足りなく感じてしまうけど。

参ったな…本当にやることがない…

もういいや、今日は昼寝でもしよう。
僕は、自室へ戻りドアと窓を開けた。
心地よい風が部屋を吹き抜けていき、部屋の空気が新鮮な物へと変わっていく。
僕は、ベッドの上に転がり目を閉じて体の力を抜いた。
柔らかな風が僕を包み込み、優しく眠りへと誘う。

「こんなに良い天気なのに寝ちゃうんですか?」

もう少しで眠れそう…というときに、何者かの声によって現実へと引き戻される。
目を開けて見ると、そこにはこの前性裁を加えたカラステングの記者がいた。
名前は…琥珀(こはく)さんだったかな?

「毎度の事ながら本当にタイミングが良いね。」
「これでも天狗ですからね、それよりも本当に寝ちゃっていいんですか?」
「やることが無い時は寝るのが一番だよ、君も一緒にどうだい?」
「素敵なお誘いですが遠慮させていただきます、やることが無いなら私について来て下さい。」
「デートのお誘い?」
「な!?そそそそんな訳なないじゃないですふぁ!!」
「思いっきり噛んでるよ?」
「いひゃい…あふぉえおふぉえへへふらひゃいひょ…」
「ごめん、何て言ってるかよく分からない。」

平静を装いながらも、今にも噴出しそうになるのを我慢する僕。
他の4人だとこんな反応は見られないからね…こういうのも新鮮でいいかもしれない。

「今心の中で笑いましたね!?」
「!?そ、そんなこと無いよ。」
「本当ですか?」
「う、うん。」
「うー…まあいいです、とにかくつべこべかべ言わずについて来て下さい!」
「かべは余計だよ、どこに行くの?」
「………」

突然、黙り込んでしまう琥珀さん。
…もしかして…無計画だったのかな?

「と、登山なんてどうですか?新鮮な空気と適度な運動でスッキリできますよ?」
「ここでも十分空気はきれいだし、運動も毎日掃除洗濯くんずほぐれつやってるから遠慮しておくよ。」
「な、なら滝に打たれると言うのは?」
「それは何の修行なのかと問いたい。」
「…瞑想は…?」
「それ完全に修行だよね?それに一人でもできると思うんだけど…」
「あぅ…」

僕の返答を聞く度に悲しそうな表情になっていく琥珀さん。
仕事熱心な彼女だからこそ、恋人と過ごすという経験を積むことなく今日までを生きてきたのだろうか…
…僕も人のことは言えないけどね…

「…買い物でもする?」
「!そ、それです!そうと決まったらすぐに行きましょう!」
「えっ!?まだ着替えてもないし準備も…痛っ!爪が食い込んでるって!痛い痛い!」






琥珀さんにさらわr…連れて来られ、アクアリウムへとやってきた。
露天ではなく、普通の店を見て回っているのだけど…

「これもいいけど…こちらも捨てがたい…うーん…」
「………」

1時間…琥珀さんがどれを買うかを決めるのにかかっている時間だ。
なんでどっちかを決めるだけにこんなに時間がかかるんだろう…

「…まだ決まらないのかい?」
「だってどっちも素敵なんですよ?こんないい物を私は手にしたことありませんよ。」
「バッグ一つに良いも悪いも…」
「何を言っているんですか!アラクネ種から取れる糸を使った商品は滅多に出回らないんですよ!?出回ったとしても美しいデザインと繊細な肌触りを持つアラクネ種の…」

両手にバッグを持ち、熱弁する琥珀さん。
こういう所では、変化の術とやらを使って人間と変わらない姿になっているらしい。
彼女の変化はすばらしく、今の琥珀さんはどこを見ても普通の人間にしか見えない。
…話が逸れてしまったな…と
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