「…いかん、迷った…」
こんな始まり方で申し訳ないが、我輩は今絶賛迷子中である。
何でこうなったかだが…あれだ、夜の散歩をしていたのだ。
迷わない様に森は避けて歩いていたのだが、途中で美味そうなきのこを見つけてな…それを拾い集めているうちに森の中に入ってしまっていたのだ…
「むぅ…先日も迷ったであるし…早く帰らないと怒られる程度では済みそうにないである…」
とは言っても…現在地が全く分からんからなぁ…
とりあえずこっちに進んでみるか、歩いてればその内出れるだろう。
…結果から言うと森は抜けた…だが、抜けた場所に問題があった。
森を抜けて始めに目にしたものは、大きな屋敷だった…
大きさだけで言ったら、その辺の名も知らぬ貴族なんかが素足で逃げ出すほどだな。
しかし…こんな所に人間が好き好んで住む事もないであろうし…魔物がすんでるか誰もいないかのどちらかだろう。
等と思考を巡らせていると、背後の草むらが不自然な音を立て始めた。
「むっ?何者だ?」
「っ!?誰かいるのか!?」
…この声…どこかで聞いたような…?
「やれやれ助かっ……あっ…」
やはり以前蹴り飛ばした勇者だったか…こんな所までご苦労な事だ。
「貴様は…あの時の恨み忘れんぞ!」
「おっ?やるか?こっちは道に迷って気が立ってるのだ、ケンカなら倍の値で買うぞ?」
「よし分かった売ってやる……と言いたい所なんだがな…」
大きく溜息を吐き、頭を掻きながら続ける。
「やらねばならんことがあるから無駄に消耗できん、今回は引かせてもらうぞ。」
「やらねばならんことか…魔物退治か?」
「ヴァンパイアの撃退だ…何所にいるかは自分で探せって言われたがな…」
…いまさらだが、勇者の扱いがぞんざいであるな…そんなにぽんぽん現れるようなものでもあるまいに…
それにしてもヴァンパイアか………ん?
「…森の中で確認されたのか?」
「物資の輸送をしてた者が見かけたらしい。」
「ヴァンパイアの住処って豪華だよな?」
「奴等曰く、ヴァンパイアは貴族らしいからな…今まで見てきた奴等の住居は無駄に豪華だった。」
「そうか………これじゃないか?」
そう言って、親指を立てて後ろを見るように促す。
「…まさかこんなに早く見つかるとは…」
「良かったであるな、それじゃあ我輩はこれで…」
「まてい。」
この場から離れようとしたとき、頭を思いっきりつかまれた。
「な、なにをする!?」
「ここまで喋らせて無事で帰れると思うか?」
「…はっ!?まさか貴様…」
「悔しいが、貴様は相当腕が立つからな…戦力は少しでも多く欲しい。」
「いやいやいや、我輩は貴様等から敵視されてるのだぞ?それに、早く帰らんと何をされるか…」
「そうか…出来次第で報酬を増やそうとも考えていたのだがな…最後までしっかりやってくれるなら森の外まで案内もしようと思ったのに…あぁ残念だ。」
「対ヴァンパイア用の道具は…無いか…まぁなんとかなるだろう。」
「…お前それでいいのか?」
仕方が無いだろう!報酬は別として、森の外まで確実に出れるとなったら協力するしかないだろう!!
あぁ…方向音痴なのが悔やまれる…何で我輩が勇者の手伝いなぞせねばならんのだ…
「それとだ…俺の名は貴様じゃなくてレオンハルトだ。」
「レオンハルトか…我輩は…」
「鉄輝だろう?アルマとセレンがお前の事を楽しそうに話してたからな。」
「あの姉妹がか…想像出来ん。」
「あの二人に戦場で出会った奴なら皆そう言うさ。」
妹の方は一度戦ってるな…全く歯が立たなかったが…
姉の方はわからん…だが、あの妹の姉なのだ…大体の予想はつく…
「…そのことで一つ警告だ…あの二人に隙を晒すなよ?」
「むっ?どう言うことだ?」
「実はな…お前を捕らえて飼いたいとか言ってたのを聞いた…」
……なんで我輩の周りっていろいろとおかしいのが集まるのか…
大体、我輩をペットにすることに何の得があると言うのだ?そんなことしても面倒が増えるだけであろうに…
「無駄話はここまでにして行くか…」
「今日は厄日だ…うぅ…」
「…やけに静かだな…」
「寝てるんじゃないであるか?」
「そんなわけないだろう……ないよな?」
「魔物の行動を人間が予測できるとでも?」
「…寝てたら面倒なことになりそうだ…」
人間にも夜型の者がいるように、ヴァンパイアにも昼型の者もいるかもしれないだろう?……我輩はいないと思うが。
屋敷に侵入したのはいいが、外見とは裏腹に中は酷い状態だった。
床や家具は埃塗れ、天井にはクモの巣が張られ、窓に至っては汚れが酷くて月明かりすら分からない状態だ…
かつては室内に彩を飾っていたであろう花瓶も薄汚く汚れ、触ると崩れるほどに乾燥した花だったものが入っている…
…本当にこ
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