65ページ:妖狐

んー…今日もいい天気であるな。
雲一つ無い快晴である。
あの計画を実行に移すのにぴったりであるな。

どんな計画か?見ていれば分かるである。

「確かこの辺だったはずだが…っと、あれだろうか。」

路地裏を覗き込むと、暇そうに欠伸をしている男が立っていた。
普通ならあんな所に人がいるはずが無いから逆に目立ちそうなんだが…まぁ我輩には関係のないことだ。

っと、男が此方に気付いたな。

「…朝の挨拶は?」
「オギャンオス。」

「「………」」

我輩の返答を聞いた男が踵で壁を蹴ると、男の隣の壁がスライドして入り口が出来た。

「…よく来たな同志…歓迎するぞ…」
「それはいいのだが…今月の合言葉ちと酷くないか?」
「…会長があれだからな…察してくれ…」
「まぁ、今に始まったことではないか…」

中に入ろうとしたところであることを思いつき、懐の中に手を入れた。
…確かこの辺に…

「…入らないのか?…」
「ちょっと待ってくれ…あったあった。」

そう言って取り出したのはミルクの入った瓶…今朝絞ったものである。

「ずっとここで立ってると疲れるだろう、これでも飲んでリラックスするといい。」
「…ありがたく頂く…」

さて行くか…やつは元気だろうか…



「よく来たな同志鉄輝、相変わらずちまいな。」
「開口一言目がそれか、ケンカならいつでも買うぞ?ジード。」
「はっはっはっ!冗談だよ、お前が元気そうで何よりだ。」
「まったく…お前も相変わらずだな。」

我輩が話しているこの男はジード、各地にひっそりと存在する公には知られていない組織の会長である。
その名も、『モフモフっ娘愛好会』…名前でどんなものか大体分かるだろう。

…ちなみに、何故か我輩の会員番号は六桁全て零しかない…奴の嫌がらせか何かか?

「それで、今日はどうしたんだ?わざわざ顔を見せに来たわけでもあるまい。」
「実はな…『稲荷のモフモフ尻尾枕』を作って欲しいのだが…」
「材料があるなら作るぞ?」
「そうか、ならこれで作ってくれ。」

そう言って、パンパンに膨らんだ大きな袋を取り出した。
袋の中身は稲荷の尻尾の毛…要するに、琴音の尾の抜け毛だ。
琴音達と旅を始めてから今日までの分が全部ここに入っている…見つからないようにするのが大変だったぞ…

「…何所にそんなものしまえる部分があるんだよ…」
「細かい事は気にするな…で、どうだ?」
「ふむ………状態も良いし、問題なく作れるぞ……だが、何でこんなに?」
「九尾仕様で作って欲しい。」

我輩の一言を聞いた瞬間、ジードが我輩の顔を見つめたまま動かなくなった。
暫くの沈黙の後、我に返ったように頭を振った。

「あー…すまん、ちょっとよく聞こえなかったんだが…なんて言った?」
「九尾仕様で作れ。」
「さっきよりも言い方がきつくなってるぞ!?というか期限は!?」
「今日中。」
「殺す気か!?普通のやつでも作るのに一日近くかかるんだぞ!!」

講義するジードの肩にそっと手を置く…
そして出来る限りの優しい笑みを作り、言い放つ。

「出来るかどうかは聞いてない…作れ。」
「……お前絶対いい死にかたしないぞ。」
「まぁおふざけはここまでにしてだ…実際の所どうだ?」
「本部で抱えてる職人総動員すれば半日…だが、それだけやるとなると高くつくぜ?」
「これで足りるか?」

そう言って懐から宝石などが入った袋を取り出した。
こいつは我輩が地道に集めていたものだな…所謂へそくりという奴だ。

「…………十分だ、よくこんなに集めたな。」
「旅先で採掘したり遺跡もぐったりしてるからな、ここまで集めるのにそう時間は掛からん。」
「いいな…俺もやってみようかな…」
「やめておけ、道に迷って出られなくなるのがおちだ。」
「そんなのお前だけだろうが…絶対に迷わないと町長が太鼓判押した森で三日も迷いやがって…探すの大変だったんだぞ?」

そう言えばそんな事もあったな…嫌なことを思い出してしまった…

「とにかく、今日中に完成させるように指示しておくよ。」
「すまんな…終わったら酒でも飲むか。」
「いいな、自称世界の支配者様の武勇伝でも聞かせてもらおうか。」
「言うほど凄い事は出来てないがな…まぁ、退屈しのぎくらいにはなるだろう。」
「それじゃあ、俺は肴になりそうなものを…」

ジードが席を立とうとした瞬間、背後の扉が勢いよく開かれた。
そこにはやや幼さの残る青年が立っていた…急いで来たのか、随分と息苦しそうだ。

「ジ…ジード……様…大変で…」
「落ち着け、俺は逃げたりしねぇから。」
「そ…そうも言ってられ…ないんです…ゲホッ…」

…そんなに凄いことがおきたのか…これは面白くなりそうであるな。

「とりあえず水を飲め、貴殿が落ち着かないと我輩達も話が聞けん。」

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