57ページ:ケンタウロス・稲荷(琴音)

「おっ、森を抜けたみたいやな。」
「だそうですよ輝様?」
「……………」
「へんじがない ただのしかばねのようだ 」
「殺すな殺すな…こうなった原因はわっち等じゃろうが。」
「師匠…その…ごめんなさい…」

…夜は襲われなかった…だが、朝になった途端全員で襲い掛かってくるとかきつすぎるだろう…
我輩は本当にこの先生きのこれるのだろうか…

「あっ、今夜もがんばってちょうだいね?」
「じょ、冗談じゃ…」
「流石にやめた方がええと思うけどな…」
「私は今日はもう良いですよ、その代わり沢山撫でてくださいね輝様?」
「まぁそれくらいなら…」
「安心せい、アレクシアと弥生はわっちが責任を持って拘束しておくからの。」
「何でや!うちは何にも悪い事してへんで!?」
「日頃の行いのせいじゃないですか?」

よかった…今日はゆっくり休めそうだ。
そうと分かれば張り切って行かんとな。

森を抜けた先は広大な草原が広がっていたである。
道はしっかりと踏みしめられた場所があるが、それ以外の場所は様々な高さの草に覆われているな。
この辺りで生活している者もいるようで、遠くの方に大きめなテントのような物が見えるである。

「ケンタウロスの集落かしらね?立ち寄ったことがないから分からないけど。」
「ふむ…我輩もケンタウロスを見た事がないであるし、個人的に気になるから寄ってみたいのだが…」
「せやな…うん、うちも気になるし行って見てもええんちゃう?」
「それじゃあ行きましょうか…あ、あれがケンタウロスですか?」

リシェルが指差した先を見ると、かなり遠くの方に動物を追いかける馬の様なものが見えた。
馬の首にあたる部分から上が人間の上半身と同じようになっているあたり間違いないだろう、あれがケンタウロスか…ぜひとも近くで見てみたいな。
手に何かを持っているようだが…あれは弓だろうか?

「んー…狩りでもしてるのでしょうか?」
「ふむ…その割には狩れてる様には見えんの。」
「…輝ちゃんの凄い所見てみたいなぁ…」
「アレクシア…あれを射抜けと申すか…」
「あら?輝ちゃんなら出来るわよね?」
「無茶を言うな…まぁ、だめ元でやってみるか…」

あんなに遠くの…しかも、動いてるものを弓で打ち抜くなんて無理に決まってるだろうに…
先日のあれは相手が動かなかったのと運がよかったことで当たったが…今回は流石に…あの時よりも距離が遠いと言うのもあるが…

「輝様、成功したら添い寝して差し上げますよ?」
「さて…本気を出すか…」
「今なら私も添い寝してあげるわよ?」
「あっ、急にやる気が…」
「…輝ちゃん酷いわ…お姉さん悲しくなっちゃう…」
「うわっ、気色悪っ!?」
「弥生ちゃん、ちょっとお姉さんと向こうでお話しましょうか。」
「…何でうちっていらんことゆうてまうんやろか…」

距離は……凄く遠いとしか言えん…幸いにも風は無いな。
相手は結構な速さで直進している…少し狙いがそれたら後ろのケンタウロスに当たってしまいそうだ…
目一杯引くとして、角度はこのくらいか…いけっ!

「おぉ…結構飛ぶのじゃな…」
「あ、当たりましたよ!」
「………何だって?」

あ、当たったのか…って、もしかしてケンタウロスに…?

「師匠凄いです!あんな遠くの獲物に命中させるなんて凄いですよ!」
「いや…まさか当たるとは…」
「輝様、今夜は楽しみにしててくださいね。」
「う、うむ…」

ちゃんと動物の方に当たった様だ…ケンタウロスに当たらなくてよかったである…
それはそうと、今夜はゆっくり寝れそうだな…琴音に添い寝してもらうと凄く安心出来るであるし。

「もう終わっちゃったの?奇跡の瞬間見たかったのに…」
「うぅ…輝はん…せめて骨は拾…ぐふっ…」
「なんてこった!弥生が殺されちゃった!」
「この人でなし!」
「えぇ、私は魔物だもの。」
「その前に勝手に殺さんでほしいんやけど…」
「…先に行きましょうか。」
「…そうしよう。」

まぁ、我輩でもない限りちゃんと来れるだろうし、さっさと目的の場所まで行くか…

「…あ、輝様…」
「むっ?どうした琴音。」
「その…手を繋ぎたい…なんて…」
「…ふっ。」
「わ、笑わないでください!」
「すまんすまん、ただ琴音は可愛いなと思ってな。」
「もういいです!知りません!」
「そうか…琴音のために空けた手が寂しくなるな…」
「……やっぱり繋いでもいいですか?」
「…うむ。」

我輩の手にそっと手を重ね、指を絡めてくる。
琴音の手はとても柔らかくて…何と言うか…安心出来るな…
…よし、今夜は手を繋いだ状態で寝よう。



歩く事十数分、我輩と琴音は目的の場所の前へと来ていた…が、何だか騒がしいであるな…
様子を見ようとテントの中を覗き込もうとしたが、琴音がそれを止めてきた。


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