「むぅ……不味さは薄らいだが効能が弱まってしまったか…もう一度作り直しだな。」
今何をしてるのかって?以前に何回か飲んでた魔力の侵食を抑える薬の改良である。
とは言っても、適当に調合していたら完成してしまったレシピなので、どの材料がどの様な効果を与えているのかもよく分かっていない。
そんな状況でやる事はただ一つ、ひたすら作りまくるだけである。
今日だけでも既に7回近く作り、すべての物が失敗作と化しているな。
だが、失敗をする度に少しずつだが相性の良い組み合わせと悪い組み合わせが分かってきている…地道に調合していればその内完成するだろう。
とはいえ、研究詰めでは疲れが溜まってしまう…少しばかり休憩を挟むとしようか。
幸いにも今日一日は一人でのんびり出来る…琴音達に土下座して頼んだ甲斐があったと言うものだ。
「ちょっと散歩でもするかな…外の新鮮な空気を吸いたいである…」
宿の…と言うより我輩の部屋の中は何とも言えない異臭がする…
宿の主人に怒られそうだな…まぁ、換気しておけばある程度は何とかなるだろう。
「んんー…素晴しくいい天気だ。」
本日も快晴であるな、絶好の散歩日和である。
少々日差しが強いが…特に問題はないだろう。
等と考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
「おいそこのお前。」
「むっ?我輩であるか?」
「あぁそうだ、この辺りで白くてフワフワした物を見かけなかったか?」
「白くてフワフワ…?」
「知らないならいい、そんな感じのを見つけたら俺の所に持って来いよ。」
何者かを聞く暇もなかった…身形からして冒険者か何かだとは思うが…
白くてフワフワ…我輩の知ってるものでは大福くらいであるな、白くてフワフワで甘くて美味しいである。
あの男は大福を探していたのだろうか?落ちてるものを拾って食べるのはやめた方がいいと思うであるが…
まぁいいか、我輩には関係のないことであるし。
…なんて考えてると巻き込まれそうであるな…この事はもう考えないように…
…む?何だこれは…粉?
「何でこんな物が…」
我輩の周囲に謎の粉が舞っているな…何だか不思議な感じがする。
なんと言うか…幸せな気分になってくると言うか…
上から降ってきているような感じはするが、上を向いても何もいない…
「ひゃぁ!?いきなり動かないでよー!」
何だ今の声は?頭の上から聞こえたが…
気になって頭を触ってみると、何かフワフワしたものに手が触れた。
それと同時に、何かに抱きつかれる様な感覚が手から伝わってくる…
手を見てみると、我輩が依然作ってたデフォルメ人形と同じくらいの大きさの少女が抱きついていた。
「こんにちわお兄ちゃん。」
「こんにちわである…で、貴殿は何をしてるのかな?」
「お兄ちゃんに幸せをプレゼントしに来たよ!」
「ふむ…それは非常にありがたいことであるが…」
白くてフワフワ…先程の男が探していたのは大福ではなく彼女であろうな。
他の特徴と言えば…大きさがフェアリー等と同じくらいだと言う事だろうか?
えっと…何だったか?ケセ…ケサ?ケサランパサランだったか?
生息域も不明で目撃例の少ない非常に珍しい魔物だったか…捕獲すれば幸せを呼び込むとか言う噂もあった気がする。
「と言うわけでお兄ちゃんのお家に行こ?いっぱい気持ちよくなって一緒に幸せになろうよ!」
「あぁ…幸せってそういう…」
まぁ、魔物だと言う時点で大体予想は出来ていた。
しかし…今日はゆっくり休みたい日であるしなぁ…どうしたものか…
「おっ!捕まえてくれたのか!」
「むっ?貴殿はさっきの…」
「さぁこっちに渡してくれ、礼は弾むぜ。」
そう言って手を差し出してくる男…
…我輩としては彼女の観察もしてみたいであるし、手放したくないが…
「…貴殿はどうする?向こうに行きたいならそれでかまわないが…」
「やだ!私はお兄ちゃんと幸せになりたいの!」
「…だそうだ、我輩としても手放したくない個人的な理由が出来たであるし、清く諦めてくれ。」
彼女の意志を尊重し、やんわりと断る。
それにだ…我輩なんかに懐いてくれているのだ…その気持ちにはちゃんと答えんとな?
「そうかよ、なら力尽くで奪い取るだけだ。」
「やはりこうなるか…仕方あるまい、しっかり捕まっていてくれ。」
「はーい。」
ケサランパサランが我輩の頭の上に乗ったのを確認し、刀に手をかける。
出来る限り相手を傷つけないようにしたいが…普通にやったら厳しいだろうな。
だが、我輩の父上が言っていた…「困った時は鉄流の奥義で何とかなる」と…
…思い出してみると随分と酷い話だ…実際に何とかなってしまうのも考え物だが。
「俺様の幸せの為にくたばりな!」
「見せてやろう…異端と呼ばれた鉄流の奥義を…」
手にした剣
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