『本日の日の変わる頃に貴様をさらいに来る、準備をして待っていろ。』
「…………」
日誌を開いてみると、こんな感じの手紙が挟まっていた。
こんな事は人間や普通の魔物はしないな…するとしたらデュラハンという魔物だろう。
我輩の記憶が正しければ、彼女等は男をさらいに来る日時を指定してくる習性があったはずだ。
それにしても…さらわれる準備って何をすればいいんだ?大人しくさらわれるような輩なんていないだろうに…
そう言えば、デュラハンから逃げ切った者は一人もいないとか言われているが本当なのだろうか?
…試してみるか…久々に学者としての探究心に火がついたである。
「弥生ー、ちょっといいであるかー?」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン…っと、輝はん何か用か?」
「ちょっと欲しいものがあってな…」
「あいよー、特別に安くしとくよー。」
「すまんな…それで欲しいものは………」
誰も成し得なかった事に挑戦するのだ、ちょっと位備え過ぎても良いだろう。
道具の調合や作成もやっておかないといかんな…いかん、何だか楽しくなってきたぞ。
そして約束の時刻…我輩は今、泊まっている宿の屋根の上にいる。
何故屋根の上か?視界を遮るものが少ないと言う事と、逃げる際の選択肢が多いというのが理由であるな。
しかし…やけに静かであるな…今にも何かが起きそうだ…
等と考えていると、突然目の前の空間に黒いものが渦巻き、その中から何かが現れた。
禍々しくも美しい意匠が施された鎧を身に付け、手には使い易そうな長剣が握られている。
ふむ…確かに、首が乗った状態だとどんな魔物か以前に魔物だと気づけなさそうであるな…登場の瞬間を見れたから我輩は分かったが…
彼女がデュラハンと見て間違いないだろうな、雰囲気たっぷりの登場まで見せてくれたし。
「貴様が鉄輝だな?」
「いかにも、我輩が鉄輝である。」
「フッ、逃げずにいたのは褒めてやる、一緒に来てもらおうか。」
「誰が逃げずに待っていたと言った?今から逃げる予定だ。」
「面白いことを言うな…私から逃げられるとでも思っているのか?」
「今からその不敗神話を打ち崩して見せよう…喜べ、貴殿の為にいつもの三倍位念入りに準備したのだぞ?」
「それは光栄な事だな…ならば、私も全力で追わないとな?」
彼女がそう言った直後に我輩は屋根から飛び降りた。
我輩が捕まるか…それとも逃げ切るのか…
「「…楽しい楽しい鬼ごっこの始まりだ!」」
奴が落とした紙切れ……手に持った瞬間に、無性に今の状況を書きたくなってしまった…
呪われている訳でもないし特別な魔法もかけられていない…いったい何故だ?
まぁそんなことはどうでもいい、重要なことじゃない。
ククク…私に捕まった奴の絶望する顔がもう直ぐ見られると思うと濡れてくるな…
「さぁて何処に……ん?」
家と家の間に置かれている木箱…その後ろに僅かに動くものが見える。
あれで隠れたつもりか?馬鹿にされたものだ。
まぁいい、ちょっと脅かしてやるか。
奴の目の前に現れた時のように闇を集め、その中へと進んでいく…
闇から出ると、私に無防備な背中を晒す鉄輝がそこにいた。
ククク…全く気づいていないな…まぁ無理もないだろう、私達デュラハンからは決して逃げることなど出来ないのだから…
そのまま奴の直ぐ後ろで屈み込み、両手で奴の目を覆い隠して耳元で囁く…
「捕まえたぞ?威勢のわりには随分とあっけなかったな?」
奴からの反応はない…驚きすぎて声も出ないのか?
さて、早速連れ帰ってたっぷりと……ん?やけに軽いな?
それに…暖かさが全く感じられない…これはいったい…?
「こんなにあっさり捕まると思ったか?フェイクに決まってるであろう。」
私が抱き抱えた何かから声が発せられたと同時に、玉のような物が転がり落ちた。
何かを置いて玉を拾おうとした直後、視界が真っ白に染まった。
「ぐあぁぁぁ!?目がぁぁぁ!目がああぁぁぁ!!」
突然の閃光によって大きく仰け反る…そして、自身が落ちて行く様な感覚…
「しまっ!?」
頭を抑えようとした時には既に遅く、後頭部に軽い衝撃と高速で回っている様な気持ち悪さが伝わってくる…
視界は未だに白く染まったまま…地に這い蹲って手探りで探す…
自分の頭を見つけだし、元も位置に戻す事には少しずつ視界が戻っていき、何とか立ち上がれるまでに回復していた。
「ぐぅ…やってくれるじゃないか…」
無防備だったのは私の方か…こうもしてやられるなんて…
まだ精には余裕があるとはいえ、この調子では瞬く間に空にされてしまうだろう…
噂はあまり当てにならないな…噂以上に厄介じゃないか…
早く捕まえてイチャイ…じゃなくて、精の補充をしないと…
この何か…よく見たら奴そっくりの人形なん
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