46ページ:Dスライム・グリズリー・ホーネット

「んっ…んっ……ぷはぁ!」
「…あの客…凄い飲みっぷりだな…」
「店主の顔見てみろよ…笑顔が引き攣ってるぜ。」

咎められる事無く酒が飲めるというのは大変素晴しいことであるな!
味で言ったらアカオニとアオオニが出してくれる酒には到底敵わんがな…これはこれで美味いが。
まぁ、この辺でやめておいたほうがいいだろう…店主の笑顔が怖いである…

えっ?琴音達に怒られないかって?今日のは奢りだからいいのである。

「わ…私のお小遣いが…」
「ちょっとばかり飲み過ぎたのはすまなかったとしか言えんが、奢る相手を間違えるとこうなるであるぞ。」
「見ていて気持ちの良い飲みっぷりだったので、少ししか気にしてませんよ。」

それでも気にしているのか…次からは気をつけようか…

さて…我輩が何をしているのかというと、今日からしばらく遺跡を攻略しに行く予定なのである。
話を持ちかけてきたのは目の前にいる女性、長身でスタイルも良く整った顔立ち…簡単に言うと美人であるな。
…先に言っておくが、純粋に遺跡に興味があっただけであるぞ?後は、珍しい魔物が見れると聞いたのも理由の一つである。

ついでに言うと、今回の遺跡探索にはもう何人かが参加する予定らしいであるな。

我輩と彼女を入れて11人…その内の一人は近くの席で豪快に食事を取っているが、他の参加者はまだ来ていないようだ。

「美味すぎるっ!!」
「…程々にしておいたほうがいいぞ?」
「あんただって酒を飲みまくってたじゃ…んぐっ!」

男が突然苦しみだし、胸元を叩き始めた。
多分喉を詰まらせたのだろう…水は既に飲みきってしまっているようだ。

男の顔が青ざめていくのを眺めていると、店員らしき魔物が彼に近づき、徐に彼の唇を奪った。

「ッーーーー!!」
「…激しいであるな。」
「…激しいですね。」

店員らしき魔物…見た感じではスライムの上位種であるダークスライムだろうか。
自分の体の一部を流し込んで、詰まった物を胃の中に流し込んでいるようであるな…自分の体ごと。

当然、男の方は彼女の魔力がたっぷり籠もった部分を流し込まれたせいで表情が蕩けきっており、彼女に抱きしめられてもまったく抵抗する様子が無い。

…………よし、採取完了っと…

「てんちょー、奥の部屋で介抱してきますねー。」
「ごゆっくりどうぞ…」

男を愛おしそうに抱きしめ、店の奥へと姿を消した…
その様子を、採取したばかりのスライムゼリーを頬張りながら眺める我輩と主催者の女性…

…意外と美味いであるなこれ…濃厚な甘さが癖になりそうだ。

「始まってもいないのに一人目の脱落者が…」
「一種の事故だと思うので仕方が無いかと…」

先が思いやられるであるな…何人が無事に帰れるのやら…



遺跡へは二日間程でいけるらしい。
最短のルートで行くようで、森を突っ切って砂漠との境界ギリギリで一泊、翌日の早朝に出発して遺跡に到着後入って少しの所で一泊するとの事だ。
道中の森や砂漠にも魔物がいるらしく、何人かが幸せな事に…もとい、犠牲になったようであるな。
まぁ、8枚の盾があるから我輩は無事に抜けれるだろう。
一枚足りない?女性を盾にするなんて男として失格である。

同行者を盾扱いしている時点で人間として失格じゃないかとか言われそうであるがな。

「どうした?早く行くぞ。」
「んっ?あぁすまん、少し考え事をな。」
「何ですかその本…見たことのない本ですが…」
「何の変哲もない日誌である、面白いことなど書いてないであるぞ。」
「そうなんですか…見せてもらってもいいですか?」
「……恥ずかしくなる事は書いてあるから見せられんである…」

ここで見られたら不味いであるな…最悪盾を失う事になりかねん…
魔物娘との甘い余生を過ごすと言うのも悪くはないかも知れんが、我輩にはやらねばならんことが山ほどあるからな。

…んっ?何だか甘い香りが……どこかで嗅いだ事のある匂いであるが…何の匂いだったか…

「でも、こんなに沢山の人と冒険をするなんて初めてかも…遠足みたいですね。」
「遠足気分で歩いていて魔物に襲われて全滅…そんなことになったら笑えんぞ。」
「大丈夫だ!私は様々な魔物の対処法を知っている、私の指示通りに動けば問題はない!」
「………思い出したである。」
「えっ?何を思い出したんですか?」
「この匂いは…アルラウネの蜜か。」

次の瞬間、その匂いが強くなると同時に草むらから何かが飛び出してきた。

「がおー!たーべーちゃーうーぞー!」

あまりにも突然の事に他の男達は固まっていたが、事の重大さに気づいた途端、一人を除いて全員が慌てて何かから離れた。
頭にはモフモフとした可愛らしい丸い耳…手足もモフモフしているが、鋭く尖った爪が見えるな。
そして彼女のモフモフした右手…
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