少年は地面に刺さったショートソードを見ている。
ピクシーは辺りを見回している。
そしてドラゴンは、眠気を示すように巣の最奥で体を横たえている。
ドラゴンが動いても問題のないほどの広さの洞窟。
この3名以外には、誰もいない。
空に向かって開いた穴から注ぐ陽光が、3名の影を浮かび上がらせる。
ドラゴンは小さな人間と小さなピクシーを見ている。
何をするでもなく、ただ眺める。
ドラゴンは動かない。
小さな人間は突き刺さったショートソードを見ている。
何をするでもなく、ただ眺める。
小さな人間は動かない。
ピクシーは辺りを見回している。
宝物を探すでもなく、ただあたりを飛び回っている。
ピクシーは止まらない。
「あの子は。あの子はどうしたの?」
幼い子供の声が響く。
ドラゴンは答える。
知りたければ戦い、勝つことだ。
弱き者に語る口は持たない。
ドラゴンはただ戦いを求める。
戦いを求め続ける。
しかし誰も動かない。
小さな人間はただいなくなった誰かを探す。
ドラゴンが幾ら告げても。
小さな人間は動かない。
ドラゴンが数度、身じろぎをする。
だが、何もしない。
そしてドラゴンは、ただ一言、告げる。
もう帰っても遅い。
招かれざる客がやってきた。
一人は小さくも剣を携えた勇者。
もう一人は体が細くも剣を携えた勇者。
二人はドラゴンを見た後。
無言でドラゴンに襲い掛かった。
そして一撃で倒された。
小さな勇者は壁に叩きつけられた。
細い勇者は洞窟の天井に叩きつけられた。
その余波で、小さな人間とピクシーは壁に叩きつけられた。
細い勇者が地面に降りる。
頭から血を流しながら細い勇者がドラゴンへ飛び掛る。
途中に落ちていた剣の部品を蹴飛ばして。
折れた刀身の断面を足場に跳び、ドラゴンの頭を叩き切る。
力の強いドラゴンは倒れ、勇者がドラゴンに剣を突き立てる。
こうしてドラゴンを巡る旅は終わる。
細い勇者は動かない。
剣を突き立てた姿勢のまま動かない。
再度振り上げて、突き刺す。
何度も、何度も、何度も何度も突き刺す。
その細い勇者をドラゴンは掴み、地面に叩きつける。
ドラゴンが体を起こす。
細い勇者は、起き上がらなかった。
力の強いドラゴンはドラゴンとの出会いを求めた少年を薙ぎ払い。
夢と希望を持った小さな勇者を吹き飛ばし。
人々を守ろうとする細い勇者を叩き伏せる。
これは、きっとそういう物語。
私は最後に竜化を解いて、少年に近付く。
蹴り飛ばされた剣のパーツを少年の側に置く。
そして。
空に開いた大穴、洞窟に開いたばかりの穴から空へ飛び立つ。
「理解しかねる。人の振りをしてきたと言うのに。どういう風の吹き回しなのだ?」
彼女は腕を組んだまま空で待機していた。
「まぁいい。お前が来ると言うのならば、私に拒絶する権利はない」
私は翼を動かし、ドラゴンの後についてく。
空は赤く赤く染まっていて、そろそろ夜が近付いてくる。
こうして、ドラゴンを巡る冒険が終わった。
また、少年に会えるだろうなんてことは。
このときは思いもしなかった。
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