ドラゴンの巣

二日経ってもドラゴンは現れない。
村の人たちは不思議そうにしている。
村長さんの息子はドラゴンがいなくなったって言って喜んでる。

「少し気になる。行ってみよう」
私たちは少年と一緒に山に行く。
ピクシーは、じっと私を見ている。

山にはゴブリンやハーピーが住んでいた。
でも大人しい。
話を聞いたら、この山はドラゴンの巣があるから、あまり騒がしくすると怒られるからだって。
好奇心旺盛な魔物たちに見守られながら山道を歩いていく。

ドラゴンは洞窟に住む事が多い。
人の様に家に住む必要が無いから。
雨風がしのげれば問題ない。
宝石や沢山の高価な物に囲まれていればそれでいい。

「そうなんだ。詳しいんだね」
少年が感心している。
少年、ドラゴンに会いに行くのに、ドラゴンの事ぜんぜん知らなかった。

例えば、昔のドラゴンが宝物を集めていた理由。
一つは単に高価な物、価値のあるものが欲しかっただけ。
一つは宝物に惹かれてやってくる強い人間を誘い込むため。
ドラゴンは宝物を使わない。
ただ集めるだけ。

だからドラゴンの巣にある宝物はいい物が集まるし、強い武具が揃ってる。
たまに壊れているのは、ドラゴンが力を入れすぎたから。
ドラゴンが加減を間違えると何でも壊れる。

ドラゴンは長い間何も食べないでも大丈夫だし、1日で沢山食べれば1月は何も食べなくてもいい。
ドラゴンはドラゴン種で言うとワイバーンみたいに種族が違うドラゴンの親戚も要るけど、ドラゴンって言っても人それぞれ。
だから火が好きなドラゴンも要れ水や氷が好きなドラゴンもいるはず。
雨が好きなドラゴンがいるんだから。

「そんなドラゴンもいるんだ」
うなずく。
ジパングのドラゴンがそうだった。
「じぱんぐ?」
すっごく遠くにある国。

海の魔物は海の人たちと仲がいい。
「え、そうなの?」
海の神様と海で働く人たちは中が良くて、海の神様と海の魔物も仲がいい。
だから海で働く人たちと海の魔物もちょっと仲がいい。
「そうなんだ。前に話をしていた時は海のことに詳しくないみたいだったけど」
迷惑三連星は知らない。

「ほんと、ドラゴンに詳しいんだよね。今まで一度も話さなかったのに」
ピクシーがちょっと怒ってる。
ふわふわ飛びながら一度も私のほうを見ない。

「少年はずっとドラゴンに会うために旅をしてきたのに。どうして今まで黙っていたのよ」
「ちょ、ちょっと。どうしたの?」
少年が慌てている。

「な、何があったの? 二人とも」
昨日一日の間はあまりピンと来なかったみたいだけど。
今日はわかりやすいほど私とピクシーの間にある空気の悪さが出てきてる。

でも、何でピクシーが怒っているのかよくわからない。
私にとって少年はとても大切で、一緒にいるとうれしくなる人間。
好きなのかなと言われても、きっと好き。
でも、他の魔物たちが言うみたいな「好き」と違うのかもしれない。

だから私は、私の中の「好き」が何なのか知りたい。
でもピクシーにそれを話してもわかってくれない。
昨日もずっと不機嫌だった。
よくわからない。

「なんでもないよっ」
うん、きっと何もない。
「そう、なんだ?」
少年は不思議そうにしてる。

話をしていてもしなくても、歩いていけばたどり着く。
歩けば歩くほど木の数が減っていく山の中の道。
その先には、盗賊が住んでいた、山の中に在る洞穴のアジト。
今はドラゴンの巣。

少年は洞窟の入り口の前で立ち止まる。
私はその隣でじっとその奥を見る。
ドラゴンの巣。
少年の目的が果たされる場所。

「ドラゴンに勝てるの?」
ピクシーが私を見る。
ピクシーはきっと私がもう倒したと思っているのかな。
同じドラゴンでも勝てると思っているのかな。

私は少年の手を引いて洞窟の中に入る。
洞窟の中は広くて、深い。
光る花が洞窟のあちこちに咲いているから明かりに問題はなくて、どんどん奥に進む。

その一番奥にドラゴンがいた。
ドラゴンは丸めていた体を起こしてこちらを向く。
「人間か。何故ココへきた」
低く重い地鳴りみたいな声が洞窟の中に響く。
ドラゴンの声。

「ぼ、ぼくは。町の人に酷い事をしないようにって話をしに来たんだ!」
「食事を得る代償として盗賊から保護している。問題はないだろう」
「そう、なんだけど。もっと仲良くして欲しいんだよ」

人も魔物も皆仲良しがいい。
それが少年の思い。
けれど。
ドラゴンには届かない。

「我はドラゴン。力強き地上の王。手を貸すことはあっても、馴れ合いをするつもりは無い」
ちょっと怒ったみたいで、声が強くなった。
少年がびくっとするけど、構わず説得を続ける。

「お願いだよ! 別に同じ村に住むとか、そう言う事じゃなくてもいいんだ。ちょっと話をしたり、それから」
「くどい」
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