初めは不思議に思わなかった。
父様は優しいし、母様も優しいから。
でもだんだんとおかしいなと思うようになった。
だから家を出る事にした。
その条件を答えの手掛かりとして。
手に入れてはいけない答えがこの世の中にはあるってことを知らない、当時の私は。
家を出るための条件を満たすために空を飛んだ。
「みんな、遅いね」
魔物が多い村に泊まってから2日が経った。
本当は昨日の朝に出る予定だったけど、少年がみんなを待つからと言ってもう一泊した。
「大丈夫だって。みんな、何だかかんだで強いんだから」
「そうなんだけど」
少年はまだ迷っている。
「あー、もう。第一、ハーピーと一緒に落ちたんなら、ハーピーが穴の外まで飛んで連れて行ったんだろうから、とっくに先に進んでるわよ」
「そうかも知れないけど」
少年はまだ迷っている。
旅の途中で同じ魔物と何度か出会う事があった。
その時は出会って別れてが当たり前だったから少年は問題なかったのかもしれない。
でも、あの町にいた時、とても長い間ずっと一緒に暮らしてきた。
だから別れた時の寂しさがとても強くなったみたい。
私は少年の手を引く。
でも、少年は動かない。
動こうとしない。
首をかしげる。
「ごめん。もうちょっと、もうちょっとだけ待ちたいんだ」
「あのねぇ。昨日もそれで結局夜になっちゃったんでしょ」
「うん。でも、今日はもうちょっとだけだから」
もう一泊する?
少年に聞いたけど、少年は首を縦にも横にも動かさない。
昨日は煩く近付いてきた魔物たちも、今日は近付いてこない。
じっと南に続く道を見続ける少年を遠巻きに眺めるだけ。
少年はこのまま待っていたほうがいいのかな。
それともドラゴンに会いに行くほうを優先したほうがいいのかな。
待っていても仕方が無いと思うのに、少年はずっと待ち続けている。
結局待っていても誰も来なくて。
私たちは日が昇りきる前に村を出た。
森の中の道は馬車が1台通ればいいくらいの幅で、左右に背の高い木が沢山生えている。
時々ハニービーが飛んでいる音が聞こえるけど、何も起きない。
少年もピクシーも黙ったまま。
遠くのハニービーの飛ぶ音が聞こえるくらい、森の中の街道は静か。
「みんな、大丈夫だよね」
少年の声が暗い。
「大丈夫でしょー」
ピクシーの声は素っ気無い。
「本当に大丈夫かな」
「大丈夫に決まってるでしょー」
「でも」
「でももかかしもないの!」
ピクシーが怒った。
「まったく、どうしたっていうの。村についてからずっと、大丈夫かな、大丈夫かなって! 大丈夫に決まってるじゃない!」
「でも」
「あー、もう!」
二人が喧嘩をしそうなので、二人とも抱き寄せる。
「どうかしたの」
「ちょっと。何で私ごと抱きついちゃってるのよ」
けんかは駄目。
「けんかじゃないよ」
「そうよ。けんかしてないのよ」
少年は昔なにかあって、心配性になったんだと思う。
だから、たくさん心配しても、きっと仕方ない。
「そうなの?」
少年は黙ったまま。
でも聞いたことがある。
少年がどうして魔物と仲良くなろうとしたのか。
少し抱き寄せてから、また歩き始める。
ピクシーは私の肩に座ってる。
ピクシーは怒ってるようで怒っていない顔をしてる。
「私だってさ。心配してないわけじゃないんだよ」
ピクシーは小さいから、小さな声で呟くととても聞き取りづらい。
でも遠くのハニービーがアルラウネと遊んでいる声よりは聞き取りやすい。
あ、くまさん参加。
「子供は心配して、友達は信用して、仲間は信頼するものだって」
ピクシーは誰かと一緒に旅をしていたのかな。
「別に。英雄の出てくる物語に良くある科白でしょ」
ピクシーはずっと下を向いたまま、足をぱたぱたさせてる。
この森の中の街道には森を抜けるまでに3つの小さな村や町を通る。
森を抜ければ北の方に1日くらい歩けば、山が見えてくる。
その山にドラゴンがいて、山のふもとに村がある。
旅の終わりが、もうあと数日。
その日は夜になった頃に村に着いた。
とても静かに、いままでにないくらい静かに歩いてきた。
私たちはご飯を食べて、そのままベッドに寝る。
村のあちこちではまだ起きている人がいるけど、少年はもう寝てしまっている。
「ねぇ、まだ起きてる?」
少年は私に背を向けたまま。
「あと、もう少し何だよね。ドラゴンがいる村まで」
少年はドラゴンに会うのが怖い?
「うん。とっても怖い。でも、会わないといけないんだ」
このままじゃドラゴンが危ないから?
「うん」
少年はそれきり黙ったまま。
気づいたら寝息を立てていた。
翌朝、今度は少しも待たずに次の町へ。
やっぱり今日も静かな街道。
少年の顔は沈んだままだし、ピクシーも暗い。
遠くから何かが近付いて
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