森の街道

たどり着いた先の光景は良く覚えていない。
多分、頭が熱で浮かされていたからだと思う。
だから突撃した私は断片的にしか覚えていない。

久しぶりに自分の翼で空を飛んだ時の、顔に当たる風。
壊れて崩れる大きな壁。
けが人は出ていなかったと思うけど、悲鳴や叫び声が聞こえた。

私は夜の闇を赤く照らして。
誰も死んでいないことを確認して。
少年のいる場所まで帰った。

体の熱が冷め切っていなかったみたいで、結局少年に抱きついて、そのまま寝た。
だからあまり良く覚えていない。
覚えているのは、寝る前に服を脱いだくらい。

「おはよ〜」
おはよ。
眠たいけど返事をする。
「今日もいい天気ー」
ピクシーが少年を起こそうと顔をぺちぺち叩いてる。

私も眠気を覚まそうと大きく伸びをする。
「なに今の音。……ちょ、ちょっと、あんた、その姿!」
首をかしげる。
「早く戻しなさいって! 見られたら不味いんでしょ!」
ピクシーが私の後ろを指差す。

大きく伸びをした時に広がった、私の翼が目に入る。
慌てて人の姿に戻るのと、少年が体を起こしたのはほとんど同時だった。
「おはよー」
「お、おはよー」
おやすみ。
「え?」

ほっと気が抜けたらまた眠くなった。
少年に抱きついて目を閉じる。
「え、ええ!? なんで?」
「しーらないっと」
「ええー!」

結局起こされて服を着てから街道を歩く。
森を走った方がいいのかと思ったけど、街道の方がいいかもしれない。
そう言う事で、ちょっとだけ急いで歩いている。

「大丈夫かな。盗賊とか」
大丈夫、問題ない?」
「そう?」
今までだって普通に魔物に襲われていたから。

「う、それは。でも、あの頃よりちょっとは強くなったんだよ?」
「ちょっと強くなったくらいじゃ、森の魔物は倒せないよー」
ピクシーが少年の顔の横を飛ぶ。

「それでも、頑張って!」
「何を頑張るって?」
姿を現したのはスライム。
でも何か変。

「赤いスライムだね」
「うん。赤いねー」
「そうそう。赤いよ」
3人揃ってうなずいてる。

「スライムなの?」
「スライムだよ」
「スライムなんだ」
3人揃って確認してる。

「それじゃ。僕急ぐから」
「うんそうなんだ」
「それじゃ、またねー」
手を振ってお別れ。

「じゃ、ないでしょー!」
赤いスライムが怒った。
「ごはんを食べようと思ったのに。何で言っちゃうの!」
「た、食べられたくないからだよ」
「駄目! おなかすいたの!」
赤いスライムが追ってくる。

「あれー、戦わないの?」
「戦わないに越した事は無いよ」
「それもそうだよねー」
「まてー! まってー!」
赤いスライムはちょっとしつこい。

走っていくと、今度は別の魔物が出てきた。
「え? かけっこ?」
ワーラビットだ。
「うん、かけっこするー」
なぜか一緒に走り出した。

そうやって走り続けて。
「増えたねー」
余裕のあるピクシーに、息が切れてきた少年が頷く。
一緒に走っているワーラビットと、途中で参加したフェアリー。
後ろを見ると、赤いスライムのほかにスライム、ゴブリン、オークまでいる。

「捕まったらえらい事になるね」
「みんなもかけっこすきなんだー」
「わたしもまけないよー」

途中、体力が尽きて走れなくなった少年を担いでスピードアップ。
みごと1位で町にたどり着いた。
「はふー。はやかったねー」
2位のワーラビットがへたり込んでる。
「相変わらず、無駄に体力があるのよねー」
同着一位のピクシーは、ポケットから顔を出した。

街道には幾つかの小さな村がある。
長い街道で休憩するために立てられた小屋が始まりで、食べ物を売る人や本格的な宿屋さんなんかが増えていって村になった。
だからこの村で休むのがいい。

すっかり疲れている少年を宿のベッドに置く。
そしてすぐに宿の外に出る。
「ん。なんだい?」

宿の前にはミノタウルスやリザードマンが立っている。
この村は魔物の助けがあるからやっていけるんだって眼鏡ラージマウスが言っていた。
「ああ、あの子は自分のだから渡さないって?」
「いいよ。あたしらより強けりゃね?」
腕自慢の冒険者たちと戦って夫を得る魔物も、村には多い。

それらを全部片付けてから部屋に戻る。
「だーめ。私が食べるんだって」
「堅い事はいいっこなしだよ」
ベッドの少年に襲い掛かろうとするピクシーを抓んで、宿の女将さんのラミアを部屋の外に出す。

「あはは。魔物のお店に泊まるのはこれが2度目だね」
少年は起きていた。
「ここって魔物が多いのかな」
「たぶん、村の大半は魔物とその旦那さんじゃないかな」

「そうなんだ」
少年はほっとした顔をしてる。
「でも、少年が魔物に襲われる可能性がものすっごく高いんだけどね」
「う。それは」
「あー。この
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