ちょっぴり困った。
穴に落ちてしまって皆とはぐれた。
何時もみたいに力任せに穴を壊すと、生き埋めになる。
仕方が無いので曲がりくねったトンネルを歩く。
トンネルは子供が立って歩けるくらいの高さがある。
「ずいぶんと大きな穴だね」
少年が不思議そうに穴を見回してる。
「ほんと。不思議な事もあるよね」
ピクシーも少年の横を仰向けに飛びながら不思議そうにしている。
二人揃って物珍しそうに周りを見ている。
「でも明るくてよかったね」
「そうだねー。これで暗かったら息苦しくってありゃしないよ」
よくわからないけど、二人は洞窟に入ったことは無いの?
「うん」
「ないよー」
では一つだけ言っておくことがある。
「うん」
「なにー?」
普通、洞窟には明かりを灯すランタンはついていない。
「そりゃ、そうなのかもしれないけど。炭鉱とかはあるでしょー」
平野のど真ん中に炭鉱?
「いや、そうだけどさ」
それにここは変な匂いが漂ってる。
「においー?」
ピクシーが辺りの匂いを確認。
「においー?」
首をかしげる。
「僕もわからないよ」
少年も首をかしげている。
でも、二人揃って同じ方向を歩いてる。
「いや、一緒に歩いているからでしょ」
途中で色んな分岐があったのに?
「そう言われてみたら。僕、分かれ道があるのに、どの道にしようかって全然悩んでないよね」
「でも、においはしないよー」
眼鏡ラージマウスなら教えてくれるのに。
私も良く分からないから首をかしげる。
匂いが行く先から漂っている。
その匂いに少年とピクシーはひかれている。
甘いような、甘くないような匂い。
その匂いにつられてみんなが歩いていく。
「でも、こっちに進んで行っていいのかな」
いいと思う。
みんなも似たように匂いにつられていると思う。
だからこのまま歩いていけばいい。
「でも何か合ったらどうしよう」
盗賊がいたなら殴ればいい。
魔物がいたら投げればいい。
「相変わらず、力技なのね」
単純な対処が一番効果があるって、眼鏡ラージマウスが言ってた。
「あー。精が足りなくなってきたー。精ちょーだい」
「え? ええっと」
少年は精がなんなのか知らないみたい。
ピクシーは知っているみたい。
「なによ。あんたも知ってるでしょ」
精がつく食べ物は知ってる。
「仕方ないわねー。私が教えてあげるわよ」
ピクシーが笑うと、くるくると回り始める。
ふわっと光がピクシーから溢れたと思ったら、ピクシーが大きくなってた。
私よりちょっとだけ背が高いくらいの大きさになってた。
「大きくなれるんだ」
「そうよー。フェラリーとは違うの」
ふぇらりー?
「あ、間違えた。フェアリーだ」
チロとピクシーが舌を出す。
「じっとしててよー」
ピクシーが少年に近付く。
「え、ちょ、ちょっと?」
「うごいちゃだーめ」
何だか兎に近付く蛇みたい。
「ほら。もう壁だよ」
「ちょっと。なにをするつもり?」
「ナニをすると思う?」
ピクシーの様子が少し変。
いつもあちこち飛び回っているのに、いまはゆっくりとしか動いてない。
「はい、つかまえーた」
ピクシーが少年の肩に手を置く。
「それじゃあいただきまー」
ピクシーを投げる。
「きゃ〜!」
壁に当たったピクシーは小さくなった。
「えっと、ありがとう?」
急いでいるから遊んでる暇は無い。
寝ているピクシーを抓んで歩き出す。
ちょっとの間だけ、私と少年は隣同士になって歩く。
ピクシーが起きるまでの間。
だれかと合流するまでの間。
ちょっとだけ、二人で歩く。
「おやぁ。こんな場所に誰かな」
見ると横穴から顔を出して寝ている魔物がいた。
ちょっと黒っぽい。
「ぼーや、かわいいじゃない。ちょっとおねーさんと遊ばない?」
魔物の頭をチョップ。
「あたっ」
「あれ、いいの?」
何も見なかったことにして歩き出す。
きっとあの人は眠かったんだと思う。
だからあれでいい。
またもう少しだけの間、少年と二人で歩いていく。
[5]
戻る [6]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録