見送り、そして見送られ

「お前たちには色々と世話になった」
「ええ、ありがとう」
「本当に助かったよ」
私たちは会わせただけ。
「討伐に来た者たちの撃退。お嬢様とカリムの再会。どれをとっても、何物にも変え難い助力だ」

エリナとお嬢様、あと糸目のお兄さんも笑顔。
「えっと。僕の名前も」
糸目のお兄さんの名前?
「……まぁ、いいか」
「ではみなさん。御機嫌よう」
お嬢様は大きな鞄を持って、エリナは新品の可愛らしい鎧と外套を身につけて、糸目のお兄さんは小さな木箱を手に持って。

「デビルバグたちは町を出て行った」
眼鏡ラージマウスが箱を突付く。
「お前たちもしっかりと箱に収まっておけ。なお、開けたからと言って勝手に周りの人を引きずりこまないように」
どうも箱の中にはミミックがいるみたい。
あと、つぼまじんとゴーストとアラクネ。
他には屋敷がまるまる1つ。

「何度見ても不思議だよねー。ミミックの箱」
「鍵穴のある箱であればどこでも住処にすることが可能ってのは、便利だよねー」
木箱に申し訳程度の鍵穴。
それだけで何でもはいるミミック箱。

「毎度おなじみワイバーン宅急便! 行き先は最寄の魔界でいいんだっけ?」
「ええ。あとはそこに定住するか他に移るか。まぁ、どこでもいいんですけどね♪」
お嬢様が糸目のお兄さんに抱きついてキスをする。
「そんな事より。お腹が空いたから。はやく、昼ごはんにしよう♪」
「なんだっていいけど。私の上でおっぱじめたら落っことすからね」

「あ、あの。その鎧、似合ってます」
「そんなはずは無いだろう。まったく、君たちは私をからかって遊んでいるだけだろう」
エリナは鎧が可愛らしくなって困っているみたい。
……いらなっかった?
「いや。……わかった。大切にするからそんな目で見るな」

じゃあ約束。
「ん?」
ちゃんと巣を守って、大事な人と暮らす事。
「ふ。わかった。貴殿も、良き伴侶を見つけるといい」
首をかしげる。
「仲の良い異性を見つけるといい」
首をかしげる。

「どうかしたの?」
少年が近付いてきた。
「む。いや。何でもない」
エリナがそっぽ向く。

「エリナって、魔物になっても鈍感なのねぇ」
「エリナさんらしいね」
「何の話?」
お嬢様とカリムが笑って、赤い帽子のワイバーンが不思議そうにしている。

そうして話をしてから、3人と1箱は飛び立った。
「さて。我々も出立するとしようか」
リザードマンの言葉に皆頷く。

「おや。もう行くのかい?」
「うん。僕たち、行かないといけない所があるんだ」
「そうかい。随分長い事一緒に居たけど。坊やも冒険者だねぇ」
おばさんが嬉しそうだけど寂しそう。

「長い事、お世話になりました」
お世話になりました。
「おばちゃん。料理美味しかったよー!」
「鍋やフライパンを焦がして悪かった。料理については、本当に世話になった。礼を言う」
「私が研いだ包丁の切れ味はそんじょそこらの鍛冶屋じゃ出せない味だからね。うっかり怪我しないようにねー」
「良き宿だった。ネズミが沸きそうな場所を幾つか見つけ対策をしておいた。しばらくはネズミに困る事は無いだろう」
「おばちゃん。蜂蜜ミルク、おいしかったよー! また針仕事とか手伝う事があったら教えてねー」
「あまりお世話にならなかったけど。お料理おいしかったよー」

私たちは皆でお礼を言って宿を出る。
「よし、行こうか」
少年の声に皆が頷く。
「ああ。行っといで! またこの町に来る事があったらおいで! 美味い料理、たーんと作っておくからさ!」
おばさんは最後まで嬉しそうで寂しそうで、でもやっぱり嬉しそうな顔をしていた。

そして私たちは、走っている。
「お前、なぜ気づかなかった!」
「いやー、ごめんってばー」
「私も完全に失念していた」
「気にしなくていいって。ねずっちと眼鏡っちにまかせっきりしていたんだしさー」

リザードマンが怒って、ラージマウスが謝って。
眼鏡ラージマウスが落ち込んで、金槌リザードマンが慰める。
ハーピーとピクシーはちょっと高い位置を飛んでみんなを追いかける。

「おばさん。途中から気づいていたのかな」
首をかしげる。
「ほら。みんなが魔物だってことにさ」
言われて、少し思い出して、うなずく。

「だって。最後にお別れしたとき。みんな魔物の姿だったのに」
いつもと同じ様に接してくれていた。
「あんな風に魔物と仲良くしてくれる人が増えれば、きっとみんなと仲良くなれるようになるよ!」
少年は嬉しそう。

でも少年は知らない。
私とおばさんが二人だけの時に話してくれた。
おばさんは冒険者をしたことがあって、魔物をいっぱい倒した事があったこと。
でもある時、人の盗賊に襲われて、魔物に助けられて、やっぱり魔物にも襲われて、でも仲良くなって。
それから冒険者をやめた
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