ようこそ魔界へ!

「わー、可愛い子」
「たべたいー。そのこたべたいー」
「邪魔するなら締め落とすわよ」
ホルスタウルスを追い払い、バブルスライムを遠ざけ、ラミアを放り投げる。
魔界は忙しい。

「少年はやっぱり人気だねー」
ラージマウスは屋台で買ったトウモロコシに似た野菜を食べている。
リザードマンは丸い何かの串焼き。
「ここは魔力が低いとはいえ魔界だ。そこへ一人身の人間がやってくれば、当然こうなるわけだ」
「うー。周りの視線が凄く集まってる」

魔界には沢山の魔物がいる。
特に今はお祭りの時期だから、色んな所から魔物がやってきている。
特に、戦闘が得意な魔物。

「おうおうおう。活きの良さそうな子供だなぁ」
「ちょっくらおねーさんたちと一緒に行かないか? なーに、すぐに男に生まれた事を感謝するようにしてやるよ」
緑肌で角の生えた魔物が二人やってきた。
二人とも背が高い。

「悪いがこの少年は伴侶を見つけに来たわけではない」
「はぁ。トカゲはひっこんでなって」
リザードマンと緑肌の一人がにらみ合いをする。
「うぅ。何だか大きくて強そうな人だね」
「オーガだ。力の強さじゃミノタウルス同等以上だ」
少年の疑問に眼鏡ラージマウスが答える。

「いいから下がってなって」
「腰のものを抜いたっていいぜ? 勝てるんならなぁ」
「貴様!」
リザードマンを投げる。

「え?」
少年が目を丸くしてる。
ラージマウスと金槌リザードマンはなぜか笑ってる。
ピクシーはリザードマンのほうに飛んで行った。
眼鏡ラージマウスは……眼鏡がきらり。

「お? この娘、やるじゃないか」
「力勝負ってか?」
首をかしげる。
オーガ二人を投げる。
「な」
「にぃいい!」

またやってきた。
「今のは油断していただけだ!」
「本気でやってやる!」
オーガ二人を投げる。
「ま」
「たぁあああ!?」

「く、今度こそ」
オーガ二人を投げる。
「まだまだぁ!」
オーガ二人を投げる。
オーガ二人を投げる。
オーガ二人を投げる。

「もうやめたげてー。オーガの体力はもうとっくにゼロ……なのかなぁ?」
さっきのホルスタウルスが止めに入ったので止める。
「相変わらずの無双っぷりだな」
リザードマン、お帰り。

「食べ物がいっぱいあるんだね」
少年は海産物の串焼きを食べている。
「あ、また食べたー」
魔界の食べ物は基本、危ないから。
「毒味と言いながら少年に近付きすぎではないかな?」
眼鏡ラージマウスにはあげない。

「あれ? リザードマンは?」
「簡単な腕試しがあるからそれに行ったよ。ピクシーもついて行った」
金槌リザードマンと眼鏡ラージマウスはマカイモ食べ放題に行った。

「みんな行っちゃったんだね」
あとはラージマウス。
「ちょ、不吉な事を言わないで」
ラージマウスを投げる。

「ちょっとー!?」
ラージマウスがいた場所を何かが通過する。
「む? そっちかー!」
ハーピーの足を掴む。

「離せ、はーなーせ!」
鉤爪がちょっと痛い。
「えっと、その人は?」
拉致ハーピー。
「いつも私を連れ去るハーピーだよ」
ラージマウスが戻ってきた。

「はーなーせー!」
どうして連れ去る?
「だってー。いっしょにいたいからー!」
魔物に好かれるラージマウス。
「月並みだけど。好かれるなら男の子がいいなぁ」

「ちーがーうーの! いいから、はなしてって!」
ラージマウスを見る。
「あー、うん。離していいよ」
何だかお疲れの様子。

拉致ハーピーが地面に降りる。
そして翼先をラージマウスに向ける。
「何で何時も逃げるの!」
「何時も襲ってくるからだよ」
「襲ってない! ぎゅーってしてるだけ!」
「だけ、じゃないよ。あれは」

少年が首をかしげる。
「どういうこと?」
「それはねー」
少年の手を引いて走る。

「え、ちょっと。置いてかないでって!」
折角だからお話しするといい。
「お話で終わらないから言ってるんだってー!」
今日はきっと大丈夫。

二人になったら魔物からの少年に対するアタックは激しくなった。
私と少年は走っていた。
走りながらいろいろな事をした。

屋台の食べ物を食べたり。
ハーピーたちの空中ダンスを眺めたり。
リザードマンやアマゾネスたちの剣闘会を見たり。
おやつを食べようとしたら、ハニービーの蜜入りで危うく少年が食べそうになったり。
乱入してきた独身セイレーンが自棄を起こして大音量で歌うので、少年の耳を塞いで走り去ったり。

久しぶりに少年と二人きりになって走り回って。
とっても楽しい。
オーガ二人にまた出会ったり。
食べ過ぎてお腹を膨らませて寝転がっている金槌リザードマンと、まだ食べてる眼鏡ラージマウスを見て呆れたり。
ハーピーの空中ダンスに参加してる拉致ハーピーとラージマウスを見て驚いたり。

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