あの男の子が勇者だって言う事はみんな知っていたみたい。
控え室にいた男の人がなぜか握手して欲しいって言って来た。
その人は二回戦で負けたみたいで、控え室に帰ってこなかった。
あと何回勝てばリナリアだったかな。
闘技場に出るたびに周りの人が煩くなる。
何を言っているのかよくわからないけど。
私が勝つたびにどんどん煩くなる。
何度か勝った後、闘技場にリナリアが現れた。
もう準決勝になったみたい。
剣を構えたリナリアは真面目な顔をしている。
「君って強かったんだね」
首をかしげる。
「皆が言っているけど、本当なの?」
首をかしげる。
「君が勇者だって」
首を横に振る。
いくら人間の振りをしているからって。
私を勇者と間違えるのはどうなんだろう。
「でも。あの子だって勇者だったのに、勝っちゃったんだよね。あっさりと」
だって子供だったから。
「あなたも子供じゃない」
今日で何度目かのドラの音が響く。
「開始!」
開始の合図。
「ごめんね。私、手加減が下手だから」
リナリアが動く。
「なるべく早く終わらせるよ」
リナリアは強い。
多分、他の勇者とも戦ったことがあるんだと思う。
さっきの男の子と違って、早い動きに慣れている。
リナリアはとても速くて、防御が間に合わない。
「ふっ!」
下手に受けると模擬剣が切れる。
でも避けきれない。
「補助魔法を使っているの? 物凄く堅い」
リナリアの打ち込みがドンドンと強くなる。
1回でも模擬剣で受けたら、簡単に切り落とされる。
武器なのに武器を使って防御できない。
こっちからの攻撃は当たらない。
何とか当てても防がれる。
首を横に倒す。
首の皮すれすれで切っ先が通過した。
リナリア、危ない。
「ごめんごめん。でも、危ないと思ったら降参して」
リナリアは手を休めない。
リナリアはどんどん早くなる。
「そろそろ武器が持たないからね。一気に行くよ」
今までで一番早い動き。
近付いてくるリナリアを迎え撃つ。
堅い石舞台を蹴ってリナリアに近付く。
この闘技大会。
武器の使用は任意で、素手で戦ってもいい。
だけどこの闘技大会は武器だけを使って勝ちたかった。
それが無理なら、武器は壊れてもいい。
模擬剣が壊れる勢いで振り下ろす。
リナリアなら当たっても死なない。
ただ、問題は。
本気で振っても、リナリアに当たらなかったと言う事。
頭の後ろに手が添えられて。
何かが頭に当たったと思ったら。
意識が真っ暗になった。
気づいたら知らない場所。
体を起こすと、お医者さんがやってきた。
私はリナリアに負けたみたい。
準決勝で負けても3位を決めるので、まだ大会は終わっていない。
私は医療用のテントから出る。
闘技場について、控え室を素通りして。
石の舞台に立つ。
メインイベントの前の前座。
3位決定戦。
相手は既に到着していた。
武器を構える。
相手は笑っている。
そういえば、この人は誰だったかな。
背が高くて、髪が長くて、目が細い人。
その人が髪を書きあげる。
髪で隠れていた顔の半分は火傷をしていた。
「お前を八つ裂きにしてやる! 公然とな!」
誰だったかな。
「この、化け物が!」
何か丸い物投げてきた。
それを受け止めて、首をかしげる。
紫色の液体がついてる。
これは見たことがある。
「破裂しろぉ!」
確か、毒。
「な、投げ返してきただと! う、うわぁあああ!」
紫色の液体がついたソレが破裂して、辺りに紫色の毒液が飛び散る。
「畜生。ついて、ねぇ」
ついていないのはむしろ審判の人。
毒液が当たって泡を吹いてる。
周りが凄くざわめいている。
「おい。最後に教えろ」
首をかしげる。
毒液で紫色に染まっているから、もう長くないのかも。
「お前は、俺のことを覚えているか?」
首を横に振る。
「そうか。そうだよな」
紫色の背の高い人が倒れる。
「お前たちからすれば、俺らなんて雑草と同じだからよ」
一度だけ震えてから、もう動かなくなった。
大会が終わった。
表彰式に出るのは優勝した人だけ。
私は少年が寝ているテントに向かう。
少年はまだ寝ていた。
私はお医者さんから薬を貰って毒液を中和する。
少年の具合を聞くと、お医者さんは何日か寝ていないといけないと言った。
私は宿に帰って皆に今日のことを軽く話して、寝た。
1ヶ月間待ちに待っていた大会は、こうして終わった。
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