闘技大会 1回戦

少年は臨時で作られた医療用のテントの中。
お医者さんの話だと、とても沢山怪我をしているみたい。
あちこちに包帯を巻いている。
夜になっても、少年は目を覚まさなかった。

「また勇者?」
ラージマウスが夕食を用意してくれた。
ちなみに、この宿屋に人は来なかったみたい。
リザードマンはご飯を食べ終わっていたから、今はお茶を飲んでる。

「一つの町に二人の勇者。こういう事はよくあるのか?」
「場所によりけりだよ。遠くの国じゃ、国内にお抱えの勇者が何人もいるってさ」
「勇者は意外と多いのだな」
勇者はどんどん減っているから、どんどん増やしている。

「どう言う事だ?」
リザードマンの顔が近い。
「勇者がそう簡単にやられるって?」
ラージマウスも興味津々。

そもそも、勇者は魔界へ討伐に行ったり、魔王の城に討伐に行ったりする。
でも魔界は歩くだけで精一杯。
勇者以外の人は気づいたら魔物やいんきゅばすになっている。

強い勇者は魔王を倒しに行く。
でも魔王の住んでいる国は物凄く魔物の魔力が濃い。
城の前に行くだけで魔物になってしまう。

「それじゃあ、あっと言う間に勇者が居なくなっちゃうね」
「そうならないのが人間の良き所であり、悪しき所だ」
ラージマウスの疑問に眼鏡ラージマウスが出てきた。
「なぜ距離をとる」
今は食べる時間、食べられる時間じゃないから。

「いったい二人に何があったのか。むしろそちらに興味が沸いたのだが」
「またの機会としよう。さて、なぜ勇者が居なくならないのかについてだが。ごく簡単な事だ」
「どう言う事?」
「勇者を囲うからだ」
カレーが美味しい。

勇者が居なくなって困るのは誰だって同じ。
だから「自分たちに味方する」勇者を手元に置く。
遠くの国に勇者が集まって住んでいるのは、数十人からなる騎士よりも強い人材を国内に押しとどめようって、椅子に座っている人たちが決めたから。

「その勇者が二人も街に来ているのは、何故だ?」
リザードマンは不思議そう。
「近くに魔界が出来たって話も聞かないし」
ラージマウスも不思議そう。
「あれ。もしかして心当たりがある?」
うなずく。

「少年の目的に関係があるのだろう?」
うなずく。
「少年の?」
ドラゴン退治。
少年は、ドラゴンに悪さをしちゃ駄目ってお話をしに行くみたいだけど。

「ドラゴン相手に、話し合いか」
リザードマンは不思議な顔をしている。
ラージマウスは大笑い。
「あはははは! さすが、魔物と一緒にご飯を食べたりするだけはあるよね」
「それが少年に美徳でもあるのだが」

勇者は違う。
「まさか。例の子供の勇者が?」
そうじゃないと話が合わない。
あの男の子は、既に勝負があったはずなのに。
少年に追撃をしたみたい。

「倒れている相手を、か?」
少年は倒れても立ち上がった。
その度にあの男の子は打ち倒した。
「譲れない何かがあったんだね」
ラージマウスが少年の眠っているテントのほうを見る。

「大会ではかち合うのか」
リザードマンに紙を見せる。
「トーナメント表か。……誰が誰だか分からないのだが」
初回で男の子。
準決勝でリナリア。

「勇者ばかりだな」
「ふむ。君は勝てるのかな?」
首をかしげる。
「問題ないって顔だね」
うなずく。

「勇者相手に勝つ。お前は勇者なのか?」
首を横に振る。
私は神様の加護なんて、ない。

翌朝、闘技場。
待っている間にリナリアの番が来た。
控え場所は大人と子供で分かれているみたい。
私のいる場所は男の子ともう少し年上のお兄さんだけ。

「君は強いよね。分かるよ」
男の子が話しかけてきた。
「いい勝負をしようね」
首をかしげる。

私たちの番が来た。
四角い闘技舞台の上に立つ。
硬い石の戦う舞台。
少年には男の子。
勇者の男の子。

「始め!」
同年代の子供よりも強くて。
大人よりも強い。

「勝負あり!」
でも、やっぱり子供。
周りの人がざわざわと煩い。

リナリアが来るまで、暫く暇になりそう。
13/02/07 22:54更新 / るーじ

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