大会が近くなってきた。
街に武器を持った人が増えてきた。
「この坊主、武器を持ってるぞ」
「ああ。大会参加者なんだろうな。今回の大会は楽そうだ」
私たちが歩くと、少しだけ目立つ。
この町にも子供はいる。
でも武器を手にしている冒険者は私たちしかいない。
だから目立つ。
「そろそろパンの買い溜めをしないといけないよね」
少年は周りの目を気にしていない。
忙しいからじゃ無くて、単に気に留めてない。
少年は強くない。
でも最初に会った時と違って、慌てていない。
リザードマンやラージマウスに鍛えられたからかな。
自信がついたのかもしれない。
「どうかした?」
やる気元気いっぱいに見える。
「うん。あのね、この間の話なんだけど」
少年が自慢するように笑う。
「僕と同じ位の年の子がいたんだ」
少年と同じ位の年の子はこの町にもいる。
でも、少年は続ける。
「その子ね。大会に挑戦するんだって」
少年が出会った男の子は自信たっぷりに言ったみたい。
決勝で会おうねって。
「だから僕も、予選なんかじゃ負けられないんだ」
少年が周りを気にしていない理由がわかった。
少年は前を向いている。
視線の先は決勝の会場。
「さ。早く帰って特訓をしないと!」
走る少年を追いかける。
少年は本当に楽しそうに笑っている。
でも、私は知っている。
この世界は厳しい。
努力は実るとは限らないし、夢は適うとは限らない。
「あはは。気にすることは無いって。誰だって壁にぶち当たる事はあるよ」
ラージマウスは全然心配をしていない。
リザードマンも頷いている。
「私もぶち当たった壁は厚く、堅く、そして雲を突くほどに高くてな。正直な話、どうこの壁を乗り越えるべきか悩んでいる」
みんな悩んでいる。
「少女ちゃんは将来の夢ってある?」
「聞いてみたいな。どんな夢だ」
二人が私を見る。
私の、夢。
今よりももっともっと、強くなる。
「……えーっと」
「足りないのか。いや、それでこそ、乗り越え甲斐があると言うものだが」
今のままじゃ足りない。
もっと、強く。
「どうしてまたそんなに強くなりたいんだい?」
金槌リザードマンがお皿を持ってきた。
皿にはピザが乗っている。
人間はどこでもやってくる。
そしてこちらの都合に関係なく襲ってくる。
だから強く無いと、巣を守れない。
「それはわかるが。なぜ今以上強くなる必要があるのだ?」
「そうそう。ミノタウルスより強いんなら、ヘタな盗賊ぐらい簡単に倒せるでしょ」
世の中にはミノタウルスより強い人間がたくさんいる。
「確かにいるのだろうが。君より強い人間となれば、もう勇者クラスになるのではないか?」
眼鏡ラージマウスは判っていない。
今日は宿の手伝いもあまりしないで外に出る。
特訓の場所を越えて、山を越える。
最近は全力で体を動かしていないから。
たまには体を動かさないといけない。
人の姿のままで。
人よりも魔物よりも強くならないといけない。
そうじゃないといけない。
少年と一緒にいるための強さが欲しい。
でも。
今よりももっと、もっと強い力が欲しい。
少年と一緒についていくだけなら今のままでもいいかも知れない。
でも。
少年と一緒に過ごすためには、今のままじゃいけない。
私は今まで沢山の武器を使ってきた。
剣、槍、斧。
大きなハンマー、馬ごと切る大剣、洗礼を受けた特別な槍。
どれもすぐ壊れた。
だから私は武器を持たない。
指を爪の代わりに。
地面を蹴って爪で引っかく。
翼がないから止まりにくい。
尻尾が無いからバランスが取り難い。
でも関係ない。
あちこち歩いて回った。
皆武器を使うけど、武器を使わないで戦う人もいた。
その人たちの戦い方を真似れば、きっと素手でも戦える。
もっと早く。
もっと鋭く。
宿に帰ると、夜だった。
「お疲れ様」
少年が料理を用意して待ってくれていた。
「さ、早く食べて。って、うわぁ!」
首をかしげる。
帰ってきた時、私の服はボロボロだった。
ラージマウスが言うには、服というより布だったって。
服は雑巾になって、私はお風呂に直行。
「ほら。しっかり泡立てるからねー。目を閉じててー」
自分で頭を洗えるのに、ラージマウスが私の頭を洗う。
「風呂は気持ちいいのだが。如何せん、眼鏡が曇る」
「お風呂じゃ眼鏡を外すもんだよ」
眼鏡を外したら眼鏡ラージマウスは何になる?
「いや。眼鏡は私の一部ではないぞ」
首をかしげる。
「はふぅー」
「いい湯だな」
ところで、いつも思うことだけど。
「なになにー?」
少年はいつ入ってくる?
「いや、少年は入ってこないだろう」
「そうだねー。何なら持って来ようか?」
「それも面白そうだ」
少年で遊ぼう。
「わー! 何で服を脱がせるのー!」
「おら
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