まーた開いてー

○種族:ワーウルフ
○特徴:2足歩行が可能な狼の亜人。
    鋭い爪や毛皮など獣の特徴を色濃く残し、獰猛さは獣以上。
    獣と違い単独での行動も多いが、獣と同様に群れ意識は強い。













「むーすーんーで、ひーらーいーて。」
「手ーをー打ーってー、むーすんでー。」
「まーたひらいてー、てーをーうーって。」
「そーのーてーをーうーえーにー。」
 4者四様の歌声が響く。
 彼女達は歌に合わせて手を掲げ、或いは下ろす。
 儀式めいた仕草だが、牧歌的な音色は見る人の心を和ませる。
 歌を歌っている彼女達が幼い子供ばかりだと知れば、なおのこと。
「ルーネ、だからー、そうじゃなくてー、手を上げるのー。」
 間延びしている下っ足らずな声の主は茶色の探検者帽子を被っている少女。
 ルーネと呼ばれた少女の手をとり、歌に合わせて動かしていく。
「んー。んー?」
 よくわかっていないのか、彼女は首をかしげたまま自分の手を取っている少女にキスをする。
「んー、んむー!」
 キスをされた少女は怒って離れようとするが、上手くいかなかった。
 二人の手を結ぶように若緑のツルが絡み付いている。
 ツルが絡み付いているのは手だけではない。二人の体全体を包むようにツルが絡まっている。
「んちゅ、ちゅ、ちゅる、ちゅ。」
「んー、んん、んちゅ、んふぅ、んっ。」
「ありゃー、二人とも何やってるんだよー。」
「ルーネったら、もう。」
「ねー、どうする、これ。」
 唐突に始まった少女達の熱烈なキスに二人は顔を見合わせる。
 片方は柔和な面立ちの女性。艶やかな髪と深い色合いの瞳。
 普段はしっかり者で真面目な彼女だが、色事には弱く、キスをする二人を見て顔を真っ赤にしている。
 熱くなった頬を冷ますように両手の平で挟む様は、年若い少女の様でもある。
 もう一人の方はといえば、薄桃色の髪が特徴的なとてもちいさな少女。
 木の実をあしらった髪留めを使って髪をツーテールに束ねている。
 彼女はこういう事に慣れているようで、二人の甘い絡みも呆れて眺める余裕がある。

 4者四様の少女達だが、彼女達は若い村娘のようで決定的に違う部分がある。
 絡み合う少女の片方は頭部に小さな角を生やしている。
 積極的に絡み付いている方の少女はといえば、体の色からして人間らしくない。
 髪も体の色も若草色で、下半身は大きな花に埋まっている様に見える。
 ツーテールの少女は背丈が2歳児ほどしかなく、背中には透明な虫の羽が生えている。
 唯一人間らしい特徴を持っているのは、顔を赤らめながらも少女二人の様子を見守り続けている女性。
 しかし彼女は魔法で一時的に姿を変えており、本来の姿は半人半魚である。
 絡み合う二人は、ゴブリンとアルラウネの少女。
 虫羽の少女はフェアリーで、半人半魚の彼女はマーメイド。
 つまり、彼女達はみな人間ではない。
 人々が恐れ、天敵としている存在。
 魔物である。
「ぷはぁっ、こ、こらぁ、みてないで、早く何とかしてー!」
「ぷぅ、んー、もっとえっち、したい。」


 4人の娘達が和気藹々と日常を楽しんでいる。
 まるで分厚い窓越しの世界だ。
「あいつら、何やってるんだ。」
「楽しんでいるんだろうさ。ほら、手が止まっているぞ。」
「ち、鬱陶しいし暑苦しいぞ。」
 手の力が抜けていく。無理やり歯を食い締めて力を込める。
 だが、力尽きた。これ以上は手が動かない。
「まったく、非力すぎるぞ。」
「おっさんが体力無双過ぎるんだよ。」
 手の力が抜けてべたんを地面に倒れこむ、というか寝そべる。
 太陽熱で温まった草が体に絡み付いて気持ち悪いが、もうあんまり動きたくない。
 全身から染み出る汗で、体中がべたついて仕方が無い。
 洗濯がしやすいように今は薄着になっているが、それを差し引いても汗が鬱陶しい。
「普段からナイフなんて軽い物を扱っているからそうなる。俺を見てみろ?」
「馬鹿力なだけだろ。」
「力だけじゃあないぞ。なにせ、俺様はマリンさんを何度も、どわぁっ!?」
「色ボケするのは他所でやれっての。」
 ガイツの方へ飛んで行ったナイフは、傍に置いていた木の板で防がれた。
 最近、ガイツのナイフに対する対処が上手くなってきた。
「おい今の顔面に飛んできたぞ!」
「偶然だろ。俺は見てのとーりくたくたなんだ。手の力がねぇからすっぽ抜けただけだ。」
 腕立て伏せ直後の腕は、心地悪い虚脱感で満たされている。
 とてもじゃないがナイフを持って振り回すなんて出来るはずが無い。
「まったく、人のことを言えた義理か、このろりお、あぶねぇっ!!」
 2本目も防がれた。残念だなぁ。
「やっぱり狙っているだろ!? 2本続けて同じ所に飛んできたぞ!」
「ぐうぜんだろ。」
「嘘つけ!」
 
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