朝になった。
少年の寝顔を見ながら起きるのを待とう。
いつもの様に少年の部屋に入る。
少年がいない。
首をかしげる。
少年の匂いが残っている。
耳を澄ませると、リザードマンの悲鳴と少年の寝息が聞こえる。
リザードマンはさて置いて。
少年の寝息に意識を向ける。
音は部屋の中から聞こえてくる。
部屋の中の、ベッドの上。
首をかしげる。
布団を捲る。
少年がいた。
少年が目を覚まして起きる。
「おはよ」
起き上がる少年をじっと見る。
「あれ、ここはどこかな……」
少年と目が合った。
掌サイズの少年の目は、ゴマ粒の様な大きさ。
「うわっ! おっきい!」
うん、小さい。
「そりゃ、ピクシーの仕業だよ」
人に化けたラージマウスが説明する。
テーブルの上にちょんと座って居る少年と私は首をかしげる。
ちなみに、リザードマンは焦がした卵をフライパンからこそぎ落としている。
「ピクシー?」
「妖精とよく間違えられる魔物だよ」
妖精。
小さいの。
お花畑に良く出てくるみたい。
でも、ここはお花畑じゃない。
「ピクシーに目を付けられたって事は、近くに居るはず何だけどねー」
聞こえない。
「そうなんだよねー。羽を使っていても魔力で補助して飛んでるから、羽音も聞こえないんだよね」
ラージマウスもお手上げ。
「じゃあ、どうしたらいいのかな」
少年は、コーヒーにミルクを入れる小さな容器でミルクを飲んでる。
少年のサイズに合うコップがないので代用。
用意してくれたのはおばさん。
小さい少年を見た最初の一言は。
「裁縫で針に糸を通す時、あるじゃないか。それで困った時に助っ人頼むから、それまでは休憩だよ」
おばさん、順応が凄く早い。
「魔物が出たのか」
焦げとの戦いが終わったリザードマンが来た。
三角巾とエプロンが似合っている。
「魔物が出たなら倒せばいいだろ」
見敵必殺?
「いや、殺すとは言わないが」
「さすが。言う事が違うねー」
「だから違うと言っているだろう」
悪戯魔物はお仕置きが要る。
リザードマンがお玉を振りながら怒っている。
料理が失敗したのもピクシーのせいだって。
「幾ら私でも、火が天井に届くほどの失敗はしない!」
リザードマン必死。
「でも。どうやって捕まえたらいいのかな」
「探すのはホネだよー。何せ、小さいし」
少年もラージマウスも困ってる。
でも、ラージマウスは確か、探索の魔法が使えた。
「あるっちゃあるけど。期待はしないでよ」
ラージマウスがテーブルの上に宿の室内地図を広げる。
それから色々魔法を使ったけど、反応が無い。
「探索魔法のレベルが低いからね。小さい物は探知に掛からないんだ」
その魔法、他の人でも使える?
「さすがに一人じゃ無理だよ」
4人なら?
室内地図に私とラージマウスとリザードマンが手を置く。
ラージマウスが魔法をコントロールして、私たちが魔力を送る。
少年は地図の上を歩いて探知石の代わりをする。
「いないね」
他にも色々と試したけど反応がない。
少年は疲れて、化粧用のパフを布団代わりに休んでる。
「何でいないんだ」
ご飯だから。
「あー。なるほど」
「どういう事だ」
リザードマンが不思議そう。
「少年を小さくした時は、同じ宿にこの子や私たちが居ると気づかなかったんだ。小さくした後で気づいて、慌てて魔力を補給しに宿を飛び出した」
ついでにリザードマンに悪戯をして。
「おのれぇ!」
リザードマンがまた怒った。
「ピクシーが何時現れるかわからないのか?」
「いや。呼び出すこと自体は簡単だよ」
「なんだと」
首をかしげる。
「あー! 少年があんなことを〜!」
ラージマウスがピクシーを呼んだ。
「な、なんだってー!」
ピクシーが現れた。
「くぅ〜〜。こんな手に引っかかるなんて」
「むしろ呼ばれるのを待っていたんじゃないかってぐらいタイミング良かったよね」
「あ、わかる? やっぱりさ。芸人を目指すならお約束って大事だよねー」
「ねー」
ラージマウスとピクシーが意気投合。
そして這い寄るリザードマン。
「ならば、オチについてもわかるな?」
私とピクシーとラージマウスがうなずく。
「リザードマンが悪い」
「あたしは何もやってない」
フライパンにアルコール度の高いお酒を入れたら炎上して当たり前。
「……」
それから。
宿にピクシーが泊まるようになった。
もちろん。
少年とは別の部屋で寝るようにしっかり見張った。
主に、抱きかかえて見張った。
少年の体は、翌朝になったら元に戻っていた。
服の中に入れていたので、私の寝巻きが破れて少し大変だった。
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